北村信正

北村信正（きたむらのぶまさ）

北村信正（1914年 - 2010年）は、日本の現代造園史において重要な足跡を残した造園家です。長年にわたり東京都の職員として造園行政に深く関与し、退職後も多くの造園関連団体で要職を歴任するなど、多方面で造園界の発展に貢献しました。

生い立ちと初期のキャリア

1914年、茨城県水戸市に生まれました。旧制水戸高等学校の理科乙種で学んだ後、東京帝国大学農学部林学科に進学し、林学と造園の基礎を修めました。1938年に大学を卒業すると、当時の東京市に採用され、造園事業の現場監督助手として公務員のキャリアをスタートさせます。

しかし、その後の人生は戦時下の激動に巻き込まれます。軍の幹部候補生部隊に入隊し、工兵として大陸へ赴任。終戦を迎えた後には、3年間にわたるシベリアでの抑留生活を経験するという過酷な時期を過ごしました。これらの経験は、その後の人生観や仕事への向き合い方に大きな影響を与えたと考えられます。

東京都での功績

抑留から帰国後、北村氏は再び東京都の職員として復職しました。戦後の混乱期を経て、都市の復興と緑地整備が喫緊の課題となる中、彼は東京都の造園行政の中枢で活躍します。

特に、1957年には子供たちの遊び環境の改善を目指す「遊び場研究会」の発足に尽力。都市における子供たちの健全な成長を支援する視点から、公園設計や整備の重要性を提唱しました。1961年には公園緑地部の技術課長に就任し、技術面から東京都の緑地計画・整備を牽引します。その後も部内で昇進を重ね、最終的には公園緑地部長として、東京都の広範な公園・緑地事業を統括する立場を務め上げました。

東京都職員としてのキャリアを通じて、彼は計画から設計、施工、管理に至るまで、公共造園事業のあらゆる段階に深く携わり、東京の緑豊かな都市空間の形成に多大な貢献を果たしました。

退職後の活動と影響

東京都を退職した後も、北村氏は造園界での活動を精力的に続けました。日本造園学会の副会長として学会活動を支える一方、東京都造園緑化業協会の初代副会長に就任し、造園業界の発展と地位向上にも尽力しました。また、国際的な舞台でも活躍し、国際造園家協会（IFLA）の日本代表、国際会議副会長を務めるなど、日本の造園技術や文化を海外に紹介する役割も担いました。

さらに、財団法人東京慰霊堂協会の理事長や日本庭園協会の理事など、緑地や庭園に関わる様々な団体の役員を歴任し、その豊富な知識と経験を活かして後進の指導や関連事業の推進に貢献しました。また、日本梅の会の会長として、日本の伝統的な花木である梅の普及・振興にも力を注ぎました。造園業の東洋造園土木株式会社では会長を務め、民間企業経営の視点からも造園界に関わりました。

主な作品と受賞歴

北村氏が手掛けた代表的な作品としては、1960年に飯田十基氏と共に制作したシアトル・ワシントン大学日本庭園が挙げられます。これは、日米友好の象徴として建設された本格的な日本庭園であり、彼の国際的な活動の一端を示すものです。

長年の功績は高く評価され、数々の栄誉に輝きました。1977年には建設大臣表彰を受賞。1984年には日本造園学会から第二回上原敬二賞を贈られました。この賞は、造園に関する学術、技術、普及指導、文化、社会活動などの分野で顕著な功績があった個人に贈られるもので、その貢献の大きさを物語っています。その他にも、第28回日本公園緑地協会北村賞、第1回佐藤国際交流賞などを受賞しています。

著書

北村氏は、自身の豊富な実務経験や知識をまとめた著書も多数発表しています。特に、造園の実務に関するシリーズは、多くの技術者にとって貴重な参考書となりました。

『計画と設計の実際』 (監修) 技報堂, 1972年 (造園実務集成公共造園篇)
『造園施工の実際』 (監修) 技報堂, 1973年 (造園実務集成公共造園篇)
『造園管理の実際』 (著) 技報堂, 1973年 (造園実務集成公共造園篇)
『造園施工管理』 (監修) 技報堂出版, 1987年 (造園実務集成公共造園篇)
『清澄庭園』 (著) 郷学舎, 1981年 (東京公園文庫 18)
『旧古河庭園』 (著) 郷学舎, 1981年 (東京公園文庫 29)
『小金井公園』 (著) 郷学舎, 1981年 (東京公園文庫 34)
『清澄庭園』 (著) 東京都公園協会, 1981年 (東京公園文庫 18)
『旧古河庭園』 (著) 東京都公園協会, 1981年 (東京公園文庫 29)
『小金井公園』 (他著) 東京都公園協会, 1981年 (東京公園文庫 34)
『小金井公園改訂版』 (著) 東京都公園協会, 1995年 (東京公園文庫 34)
『旧古河庭園第2版』 (著) 東京都公園協会, 2002年 (東京公園文庫 29)

北村信正氏は、官公庁での実務経験を基盤に、戦後の日本の都市緑化と造園技術の発展に大きく寄与しました。その功績は、作品や著書、そして彼が育成に関わった多くの人々に引き継がれています。2010年に96歳で生涯を閉じましたが、日本の造園界におけるその影響力は今なお色褪せることはありません。

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