北条景広

北条 景広

北条 景広（きたじょう かげひろ）は、日本の戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将であり、越後の戦国大名・上杉氏の有力な家臣の一人でした。天文17年（1548年）に生まれ、天正7年2月3日（1579年2月28日）に没しました。父は同じく上杉氏に仕えた北条高広であり、景広はその嫡男として家督を継ぎました。通称は丹後守（たんごのかみ）と名乗りました。

生涯の歩み

天文17年（1548年）、北条高広の嫡男として生を受けた景広は、幼少期から武士としての道を歩み始めました。永禄6年（1563年）になると、父である高広と共に、関東における上杉氏の重要拠点であった厩橋城（現在の群馬県前橋市）へと入城します。この地を拠点として、景広は父と共に、主君・上杉謙信の関東方面における政治や軍事活動を補佐する重責を担いました。特に、その生まれ持った武勇は類いまれなものであり、敵味方から「鬼弥五郎（おにやごろう）」という異名で称されるほどでした。この異名は、彼の恐るべき戦闘能力と勇猛さを端的に示しています。

天正2年（1574年）、父である北条高広が隠居するに伴い、景広は北条氏の家督を正式に継承し、当主としての地位を確立しました。

御館の乱とその最期

景広の生涯における最も重要な局面は、上杉謙信の死後に勃発した上杉家中を二分する大規模な内乱、「御館の乱」でした。天正6年（1578年）、天下にその武名を轟かせた上杉謙信が急逝すると、その跡目を巡って、養子である上杉景勝と上杉景虎の間で激しい争いが巻き起こります。景広は、この御館の乱において、上杉景虎を支持する立場を明確にし、景虎方の有力な中心人物として、越後国へと進軍しました。彼は越後各地で、上杉景勝が率いる軍勢と幾度となく戦火を交え、その武勇をもって景虎方を支えました。

景広の存在は、景勝方にとって非常に厄介なものでした。景勝自身が、配下の武将たちを鼓舞する際に、「北条丹後守（景広）さえ討ち取ることができれば、景虎の勢いはどうにでもなるだろう」と語ったとされるほど、敵方からもその武力と影響力を強く警戒されていました。これは、景広が単なる一武将ではなく、景虎派全体の求心力に関わるほどの重要な存在であったことを物語っています。

しかし、天正7年（1579年）2月1日、運命の日は訪れます。この日、景広は府中八幡宮に参籠（神社にこもり祈願すること）しており、その帰路を狙われます。景勝方の武将である荻田長繁は、景広の帰りを待ち伏せする周到な計画を立て、わずか数名の兵を連れて襲撃を実行しました。不意を突かれた景広は、荻田長繁の放った槍によって深手を負ってしまいます。この傷がもとで、景広はまもなく息を引き取ることとなります。死去したのは、襲撃から二日後の天正7年2月3日（新暦2月28日）でした。

景広は御館の乱における景虎派の中核を担う武将の一人であったため、彼の戦死は景虎派にとって計り知れない打撃となりました。精神的な支柱を失った景虎派からは、これを機に多くの武将や兵が離反し始め、勢いを急速に失っていきます。結果として、景虎派は乱に敗北することになり、景広の死は乱の趨勢を決定づける大きな要因の一つとなったのです。

補足事項

景広の私生活に関する詳細な記録は多くありませんが、興味深い説の一つとして、彼の妻について言及されているものがあります。上杉謙信が景広の父である北条高広に宛てた書状の中に、景広の妻が能登の畠山義隆の未亡人（三条氏の娘）であったことを示唆する内容が記されているとされ、この説が唱えられています。

北条景広は、短い生涯ではありましたが、上杉謙信の下で関東における活動を支え、「鬼弥五郎」と称されるほどの武勇を示し、そして御館の乱においては景虎派の要として歴史に名を刻みました。その壮絶な最期は、御館の乱の行方を大きく左右する出来事として語り継がれています。

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