北条氏重

北条氏重：転封と改易の生涯

北条氏重は、江戸時代前期に活躍した大名です。その生涯は、数々の転封と、最終的な改易というドラマチックな出来事に彩られています。

氏重は、保科正直の四男として誕生しました。母は徳川家康の異父妹であったことから、家康との血縁関係も持っていました。さらに、大岡忠相の外祖父という立場も持ち合わせていた、由緒ある家系に生まれた人物でした。

慶長16年（1611年）、氏重は後北条氏の一門である北条綱成の孫、氏勝の養子となりました。これにより、下総国岩富藩の1万石を相続することとなります。しかし、彼の転封劇はここから始まりました。慶長18年（1613年）には下野国富田藩へ、そして元和5年（1619年）には遠江国久野藩へと転封を繰り返します。

慶長19年（1614年）の大坂冬の陣では、榊原康勝に従い、岡崎城の守備に当たったという記録が残っています。その後は伏見城番を務めるなど、武家の重要な役割を担っていました。

転封はその後も続き、寛永17年（1640年）には下総国関宿藩へ転封となり、所領は2万石に増加しました。さらに、正保元年（1644年）には駿河国田中藩へ転封、5000石の加増を受けます。そして、慶安元年（1648年）には、遠江国掛川藩へ3万石で転封となり、氏重の領地は最大規模となりました。

しかし、氏重には不幸が待ち受けていました。5人の子供はすべて女子であり、男子の後継者がいませんでした。そのため、万治元年（1658年）10月1日、64歳で死去した氏重の後、家督を継ぐ者がおらず、同年12月22日に改易という処分が下されました。

改易の理由については諸説ありますが、『廃絶録』には、氏重が愛馬である黒い馬で鷹狩に出かけた際に落馬して亡くなったという記述があります。この事故を巡り、家臣が主君の敵として馬を殺したという話が世間に広まったという説や、末期養子が認められなかったことが改易の原因の一つとして挙げられています。

北条綱成系の北条家については、氏重の義兄である繁広（氏勝の実弟で氏勝の養子となっていた）の家系が旗本として存続しました。氏重の短い期間での複数の転封、そして最終的な改易という生涯は、激動の江戸時代を象徴する出来事と言えるでしょう。 彼の生涯は、権力闘争や運命のいたずら、そして時代の流れに翻弄された一人の大名の物語として、後世に語り継がれています。また、小説『青嵐の馬』では、氏重が徳川家康と多却の間の隠し子という設定で描かれていますが、これは創作上の設定であると考えられます。

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