北条霞亭 (小説)

北条霞亭（ほうじょう かてい）

森鷗外の長編小説『北条霞亭』は、備後福山藩の漢学者、北条霞亭の伝記を題材としています。本項では、続編である『霞亭生涯の末一年』についても併せて解説します。

概要

『北条霞亭』は、森鷗外が晩年に執筆した作品で、もともと『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』に1917年10月30日から連載が開始されました。しかし、鷗外が帝室博物館総長兼図書頭に任ぜられ多忙になったため、同年12月26日をもって一時中断されました。その後、1918年に『帝国文学』2月号から連載が再開されましたが、同誌の廃刊により中断。1920年に題名を『霞亭生涯の末一年』と改めて『アララギ』10月号より連載を再開し、1921年11月号で完結しました。

鷗外は以前にも『伊澤蘭軒』で北条霞亭についてまとまった記述をしていましたが、『北条霞亭』では「霞亭の言行を知ること、なるべく細密ならむことを欲する。この稿はこの希求より生じた一堆の反故」と記し、より詳細な霞亭の人物像を描こうとした意図がうかがえます。

主な新版

『北条霞亭　鴎外歴史文学集　第10・11巻』岩波書店、2001年。（小川康子・興膳宏による詳細な注・解説）
『森鴎外全集　北条霞亭』ちくま文庫、1996年

内容

『北条霞亭』：備後福山藩の漢学者、北条霞亭の伝記。
『霞亭生涯の末一年』：『北条霞亭』の続編であり、霞亭の晩年を描いています。

評論

石川淳は、評論『森鷗外』において、霞亭を「俗情滿々たる小人物」と評しました。学殖によって粉飾されているものの、その本質は俗物であり、鷗外自身も霞亭の嫌な部分に気づいていたのではないかと指摘しました。さらに、『霞亭生涯の末一年』で鷗外が霞亭をかばうように見えるのは、鷗外自身の中に同様の性質が潜んでいたからではないかと考察しています。

松本清張は、『両像・森鷗外』で石川淳の評論を称賛しつつ、鷗外が謙遜の辞を述べた点に注目しました。鷗外は連載途中で霞亭の俗物性に気づいたのではなく、資料を基に構想を練る段階でそれを把握していたと論じました。

脚注

本作は、鷗外が歴史上の人物を通して、人間の複雑さや内面を描き出した作品として評価されています。霞亭という人物を通して、鷗外自身の内面や文学観が反映されているという解釈も存在し、様々な視点から読み解くことができる作品です。読者は、霞亭の人物像や鷗外の意図について深く考察することで、より多角的に作品を理解することができるでしょう。

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