北海部郡

北海部郡：大分県を彩った歴史の郡

北海部郡は、かつて大分県に存在した郡です。その歴史は江戸時代へと遡り、明治時代の行政改革を経て、平成17年（2005年）に消滅するまで、大分県の地域社会に深く関わってきました。本稿では、北海部郡の変遷を詳細にたどり、その歴史的意義を明らかにします。

江戸時代の北海部郡：藩領の複雑な様相

江戸時代、北海部郡の地域は、臼杵藩、佐伯藩、熊本藩の三藩の領地が入り組んでいました。臼杵藩は郡内に多くの村を支配し、特に「村組」と呼ばれる行政単位を用いて、効率的な統治を行っていました。文政6年（1823年）時点の村組の構成は、ほぼ最終的なものと考えられています。一方、佐伯藩領は、津久見村を中心とした地域で、御朱印村とその下に属する枝郷という複雑な構造を持っていました。枝郷は時代によって再編され、その名称や範囲は変動していたとされます。「郷村仮名附帳」（享和3年、1803年）などの史料が、当時の状況を理解する上で重要な手がかりとなります。また、佐伯藩では村を「在方」（農山村）と「浦方」（漁村）に分類し、それぞれの特性に応じた統治を行っていました。熊本藩領は、関手永という行政単位のもとに統治されており、関村（現在の佐賀関町）に御茶屋や会所が置かれていました。

明治時代：郡制施行と町村制

明治時代に入ると、廃藩置県、府県統合を経て、北海部郡を含む地域はすべて大分県の管轄となりました。明治8年（1875年）には大規模な村落統合が行われ、明治11年（1878年）に郡区町村編制法の施行に伴い、北海部郡が正式に発足しました。郡役所は臼杵町に置かれました。その後、明治22年（1889年）の町村制施行により、北海部郡は複数の町村に分割されました。この時点での町村数は2町25村でした。

昭和時代：市町村合併と郡の縮小

昭和時代に入ると、市町村合併が盛んに行われました。昭和25年（1950年）には臼杵町と海辺村が合併して臼杵市となり、郡から離脱しました。翌年、津久見町など複数の村が合併し、津久見市となりました。その後も合併は続き、昭和29年（1954年）、昭和30年（1955年）、昭和38年（1963年）と段階的に市町村合併が進みました。

平成時代：北海部郡の消滅

平成17年（2005年）、最後の町村であった佐賀関町が大分市に編入され、北海部郡は消滅しました。これは、1878年の郡の再編以来、大分県で初めて郡が消滅した事例となりました。

北海部郡の行政

北海部郡は、郡役所、郡会、そして後に北海部地方事務所などを経て、地域の行政を担ってきました。郡長などの行政官は、郡の行政運営の中枢として重要な役割を果たしていました。

北海部郡の歴史的意義

北海部郡の歴史は、藩領時代の複雑な地域構造から、明治時代の行政改革、そして昭和・平成時代の市町村合併による消滅まで、日本の近代化と地方行政の変遷を反映しています。旧高旧領取調帳、郷村仮名附帳といった史料は、その歴史を紐解く上で貴重な資料であり、北海部郡の研究において重要な役割を果たしています。北海部郡の歴史を学ぶことは、日本の地方行政史、そして大分県の歴史を理解する上で不可欠です。


参考文献

「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編『角川日本地名大辞典』 44 大分県、角川書店、1980年11月1日。
旧高旧領取調帳データベース
『大分県史』近代篇Ⅰ（大分県、1984年）
『日本歴史地名大系』45 大分県の地名（平凡社、1995年）

もう一度検索