北進論

北進論について

北進論（ほくしんろん）は、日本の明治維新以降に提起された対外政策の一種であり、「日本は北方地域への進出を図るべきである」という考え方を指します。この論理は、南進論と対を成しており、北進論が示す「北方」の範囲は、歴史的な背景に応じてさまざま変化しました。

起源と背景

北進論の起源は、幕末期の開明派の指導者である鍋島閑叟にまで遡ることができます。彼は、ロシアの南下に対する警戒心から、帝都を第二の拠点として秋田に設ける提案をしました。こうした考え方は、明治時代に入り、次第に具体的な政策として発展していきました。

初期の北進論は、領土拡張や軍事進出と直接結びついていないものの、日清戦争の最中には、朝鮮半島や遼東半島の制圧、その先の北京侵攻を目指す動きがみられました。この時期、日本の対外政策はより具体的な戦略を必要としており、北進論はその一部として進化していったのです。

民間活動と政策化の過程

日清戦争や日露戦争に勝利後、北進論は近衛篤麿や神鞭知常などの指導者を通じて政策レベルに取り入れられていきました。また、ウラジオストクで活動していた浪人団体のリーダー内田良平などが、民間においてもこの論を推進していく重要な力の一つとなりました。

1920年代に入ると、満州事変以降、北進論はさらなる加速を見せます。特に満州国からソビエト連邦（ロシア）への侵攻が議論され、陸軍や関東軍においてこの考えが思想的なイデオロギーとして定着しました。この頃には、張鼓峰事件やノモンハン事件といった実際の紛争を通じて、北進論は重要な役割を果たしていました。

第二次世界大戦における北進論

日本が第二次世界大戦に突入すると、陸軍にとって最大の敵はソ連（ロシア）であり、対米戦争とは別に北への進出が重視されました。1942年春には、田中新一参謀本部第一部長が『大東亜長期戦争指導要綱』を作成し、南方作戦を短期間で終結させ、その後北方へ兵力を転用する方針が示されました。

1941年に独ソ戦が始まると、陸軍内部で北進論が活発に議論され始めました。当初は慎重だった陸軍省も、参謀本部の影響を受けて急速に開戦の方向へ舵を切ります。これにより、関東軍特種演習（関特演）として大規模な兵力が動員され、さらなる進撃の準備が進められました。

しかし、日本が仏領インドシナ南部に進駐することでアメリカとの関係が悪化し、対日禁輸が強化されると、戦場は南方へとシフトし始めます。資源の不足が深刻化する中で、日本は南進の道を選び、北進論は次第に後退する形となりました。

結論

北進論は、日本の近代史における複雑な対外政策の一環として位置づけられます。この論理は、状況や時代によって変化し続けたものの、特に日清戦争や日露戦争、さらには第二次世界大戦での戦略に大きな影響を与えました。こうした歴史的背景を理解することは、日本の対外政策を探る上で重要な手掛かりとなるでしょう。

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