北限のサル

北限のサル：下北半島に生きるニホンザルの生態、歴史、現状

青森県の下北半島に生息するニホンザルは、「北限のサル」として知られています。彼らは、ヒト以外の霊長類が生息する世界最北の地で暮らしており、その生態は他の地域のニホンザルとは異なる特徴を持っています。この貴重なサルたちは、国の天然記念物「下北半島のサルおよびサル生息北限地」として保護されています。

特徴

北限のサルは、下北半島の北部に分布しており、かつては北西部と南西部に分かれて生息していましたが、現在では連続した分布域を持つ単一の個体群となっています。彼らの最も顕著な特徴は、海岸を採食の場として利用することです。岩に付着したカサガイ類を剥がして食べたり、ホンダワラやアマノリなどの海藻類を摂取したりします。時には、漂着したダイコンやキャベツを食べることも観察されています。他の地域でもニホンザルが海岸に出ることはありますが、これほどまでに海産物を積極的に食べる例は珍しく、森林の食物だけでは生き延びることが難しいことを示唆しています。

九艘泊（むつ市脇野沢）から仏ヶ浦（佐井村長後）にかけての海岸線は、自動車道路が通っておらず、ニホンザルの生息する森林が直接海岸に接しているため、彼らが海へとアクセスしやすい環境となっています。

ニホンザルが津軽海峡を越えて北海道に上陸できない理由としては、遊泳能力がないことや、青函連絡船やフェリーでの厳重な積載物チェックが挙げられます。仮に上陸できたとしても、冬季に温暖な道南の一部地域しか生息に適した場所がないことも要因として考えられます。

歴史

1960年秋、脇野沢村（現むつ市）の九艘泊にニホンザルの群れが現れたことがきっかけで、下北半島にニホンザルが生息していることが広く知られるようになりました。当初は、畑を荒らすサルを駆除しようとする住民と、餌付けをして共存を模索する住民との間で意見が分かれました。1960年代の調査では、下北半島の南西部と北西部に、それぞれ6-7群、150-200頭が生息していたと推定されています。

1970年11月11日、下北半島のサルとその生息地が国の天然記念物に指定され、九艘泊の北方に餌付け場が設けられました。しかし、その後サルの数は増加し、その理由として、森林伐採による生息環境の悪化、餌付けや農作物による食生活の改善、暖冬による幼獣死亡率の低下、天然記念物としての保護などが複合的に影響していると考えられています。特に、森林伐採による広葉樹林の減少は、サルの食料不足に深刻な影響を与えました。

1982年には大規模な捕獲作戦が行われ、82頭のサルが捕獲されて野猿公園で飼育・展示されています。その後も、被害抑制と保護の間で様々な取り組みが続けられています。

1984年11月1日、下北半島の西部が国指定下北西部鳥獣保護区（希少鳥獣生息地）に指定され、ニホンザルの保護も目的の一つとされました。1988年の調査では、北西部個体群は約250頭、南西部個体群は約100頭と推定されています。

1991年、環境省のレッドデータブックで「下北半島のニホンザル個体群」が絶滅のおそれのある地域個体群に評価されました。しかし、2007年には個体数の増加を理由にランク外となっています。

2001年時点では、22-23群、約1000頭が生息していると推定されています。ニホンザルの出現エリアも、むつ市以西の下北半島全域に拡大しています。

サルによる食害

北限のサルが多く生息するむつ市脇野沢では、サルによる農作物の食害が頻発しており、民家に侵入して食べ物を盗むサルもいます。しかし、天然記念物に指定されているため、駆除数には制限があり、効果的な対策が難しい状況です。畑にネットや電気柵を設置するなどの対策が行われていますが、サルの知恵や行動力によって、食害は依然として続いています。

観光

むつ市脇野沢地区では、畑の近くでサルに遭遇することがよくあります。サルを間近で見たい場合は、「猿山公苑」を訪れることができます。ただし、野生のサルは食べ物を持っている人に襲いかかったり、群れの若いサルが過剰な防衛行動を取ることがあるため、不用意に近づくのは危険です。

保護上の位置づけ

• - 天然記念物：1970年11月11日、「下北半島のサルおよびサル生息北限地」として指定。
• - 農作物への食害により有害鳥獣に指定。

かつては生息環境の悪化や外来種との交雑により個体数の減少が懸念されていましたが、2007年現在では個体数は増加しています。

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