医師ジャン・ジャコモ・バルトロッティ・ダ・パルマの肖像

『医師ジャン・ジャコモ・バルトロッティ・ダ・パルマの肖像』、または『男性の肖像』として知られるこの絵画は、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1515年から1518年頃に制作した油彩作品です。この肖像画は、画家の初期における傑作の一つとされ、現在はウィーンの美術史美術館に所蔵されています。

制作年について

美術史家ゲオルク・グロナウは、この絵画が1511年頃に描かれた可能性を指摘しています。その根拠として、ティツィアーノがパドヴァで描いたフレスコ画の中に、本作と非常に類似した頭部が見られることを挙げています。しかし、美術史美術館では、制作年をもう少し遅い1515年頃としています。

この作品は、1648年頃にイタリアの画家カルロ・リドルフィによって、ヴェネツィアのバルトロメオ・デッラ・ナーヴェの邸宅で確認されています。その後、1660年には、オーストリアのレオポルト・ヴィルヘルム大公の作品目録『絵画の劇場』にティツィアーノの作品として記録されています。

作品の特徴

肖像画に描かれているのは、50歳前後のヴェネツィアの知識人と見られる人物で、その表情からは、知的な鋭さと決断力が感じられます。ティツィアーノは、人物の個性を的確に捉えながらも、それを「称揚的理想化」によって、雄弁で英雄的な印象に高めています。人物は、4分の3正面を向き、暗色の背景と衣服によって細部を隠し、顔と手のみを部分的に照らすことで強調しています。この手法は、ティツィアーノが後の作品でも頻繁に用いる常套手段となりました。

描かれている人物は、パルマ出身の内科医であり著作家のジャン・ジャコモ・バルトロッティ（活動期間1491-1530年）であると考えられています。彼はティツィアーノの医師であったとも言われています。この人物特定の根拠は、カルロ・リドルフィが1648年に残した記述に基づいています。

グロナウは、ティツィアーノの初期肖像画を比較研究し、手が人物の本質的な特徴を表すために使われていると指摘しています。本作では、力強い左手が肩から垂れ下がる黒い布を握っています。この仕草は、「この偉大な医師が遠くからでも認識できる特徴」であり、「集中した表情で、視線は遠くを見つめているが、それはこの人物の特徴を表す上で、手の仕草に劣らず重要な役割を果たしている」と述べています。

作品の来歴

• - 1636年：ヴェネツィアのバルトロメオ・デッラ・ナーヴェのコレクション
• - 1638–1649年：ジェイムズ・ハミルトン（初代ハミルトン公爵）のコレクション
• - 1660年：オーストリアのレオポルト・ヴィルヘルム大公のコレクション

参考文献

• - 前川誠郎・クリスティアン・ホルニッヒ・森田義之『カンヴァス世界の大画家9　ジョルジョーネ/ティツィアーノ』、中央公論社、1984年刊行 ISBN 4-12-401899-1
• - Ricketts, Charles (1910). Titian. London: Methuen & Co. Ltd.
• - Ridolfi, Carlo (1648). Le maraviglie dell'Arte ovvero, Le vite degli Illustri Pittori Veneti e dello Stato. Vol. 1. Venice: Giovanni Battista Sgava.
• - Kunsthistorisches Museum公式サイト

この作品は、ティツィアーノの初期の肖像画技法を理解する上で重要な作品であり、その芸術的価値は高く評価されています。

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