医心方

『医心方』の概要

『医心方』は、平安時代に宮中で医官を務めた丹波康頼によって編集された、現存する日本最古の医学書です。彼は984年にこの著作を皇室に献上し、以来医療の教科書としての役割を果たしてきました。

構成と内容

全30巻から成る『医心方』は、医師の倫理、医学総論、各種疾患の治療法、保健衛生、養生法、医療技術、医学思想、さらには房中術に至る幅広いテーマが網羅されています。内容はすべて漢文で記されており、唐代の多くの医学書から引用されています。この点から、多くの失われた医学文献を復元する手助けとなる貴重な資料として文献学的にも非常に重宝されています。

さらに、平安・鎌倉時代の送り仮名や語句に関する点が付そえられているため、国語学及び書道史においても重要な資料とされています。古典としての『医心方』の扱いは、新たな知識の源として過去の文献が引用され再編されるという特性を持っています。これは、東アジアにおける古典の整備としても位置づけられます。

歴史的背景

『医心方』の過程は、時代を超えて続きました。丹波康頼が編纂したこの書物は、1554年に正親町天皇によって典薬頭半井家へと譲与されました。その後、丹波家にも秘蔵されたとされていますが、特に丹波家の末裔である多紀家では、幕末までに多くの巻が失われてしまいました。しかし、多紀元堅による復元が行われ、完成した『医心方』が幕末に江戸幕府による校勘作業のもとに元本として再印刷されました。

一方、半井家に伝わっていた『医心方』の原本は、1982年に文化庁に購入された後、1984年に国宝に指定されました。現在では、東京国立博物館に収蔵されています。

ユネスコ登録の動き

近年では、2018年に『医心方』がユネスコの「世界の記憶」登録を目指す動きが始まりました。議員連盟が設立され、その活動は現在も続いています。これは、医療のみならず文化的価値を持つこの書物が、国際的にも重要な位置を占めることへの関心を示しています。

まとめ

『医心方』は、日本の古典医学の集大成としての役割を果たし、後世にわたって多くの人々に影響を与えてきました。その知識や思想は、現代の医学や文化にも様々な形で引き継がれています。今後も、その重要性が再評価され続けることでしょう。

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