医療後送

医療後送（MEDEVAC）とは

医療後送（MEDEVAC）とは、英語のMedical Evacuationの略で、医療行為を行いながら傷病者を医療機関へ搬送することを指します。主に軍事医療の分野で使用される用語であり、そのために用いられるヘリコプターを指してMEDEVACと呼ぶこともあります。

医療後送の歴史

航空機による傷病者の輸送は、当初、医療行為を伴わない負傷者後送（CASEVAC）として始まりました。その起源は、1870年代初頭の普仏戦争において、パリを占領していたプロイセン軍が観測気球を用いて行ったとされています。

1930年代には、回転翼機（ヘリコプター）によるCASEVACの試みが行われるようになり、第二次世界大戦で実験的な輸送が試みられました。朝鮮戦争においては、ヘリコプターによるCASEVACが本格的に展開されるようになりました。

アメリカ合衆国が南ベトナムへの軍事介入を開始すると、再びヘリコプターによるCASEVACが行われるようになり、医療体制の充実とともにMEDEVACへと発展していきました。1965年初頭からアメリカ軍の死傷者が急増したことを受け、1966年3月には第44医療旅団がベトナムに派遣され、その後4個の医療群が編成されました。これらの医療群の下には、UH-1Bよりも大型のキャビンを持つUH-1Dを使用して医療後送を行う医療中隊（航空救急）や医療分遣隊（ヘリコプター救急）が編成されました。また、高温多湿な高地という悪環境下での任務を安全に実施するため、エンジンを強化したUH-1Hが優先的に配備されました。

1991年の湾岸戦争でも、中東各地に医療中隊・医療分遣隊が展開し、赤十字を描いたUH-1HやUH-60Aが運用されました。アメリカ陸軍では、1990年代後半から、UH-60AをベースにFLIR（前方監視赤外線）を追加したMEDEVAC専用機であるUH-60Qを調達し、エンジンの強化やコックピットのデジタル化を行ったHH-60Mの運用も開始しています。

日本における医療後送

陸上自衛隊でも、CH-47をMEDEVACに利用するための航空後送機材を導入しており、東日本大震災の際に初めて使用されました。この機材は、ストレッチャーと、それを固定するための車輪付き振動対策パレットで構成されており、CH-47には最大3台を設置することが可能です。

参考文献

石川潤一「航空医療輸送 : Aeromedical Evacuationの歴史と現状」『航空ファン』第69巻、第5号、文林堂、50-57頁、2020年5月。
高井三郎「ベトナム戦場の衛生ヘリ――ダスト・オフ」『軍事研究』第26巻、第7号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、162-173頁、1992年9月。

関連項目

ドクターヘリ：民間航空機による救急医療。
航空医療後送：航空機を利用した医療機関間の患者輸送。

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