十九歳の地図

『十九歳の地図』について

『十九歳の地図』は、中上健次による日本の短編小説で、1973年に発表され、同年の芥川賞にノミネートされるも落選に終わりました。この著作はその後、1979年に映画化され、主に若者の心の闇や葛藤を描いています。物語は、東京のある新聞配達員の日常を通して展開されます。

概要

この小説は、1973年6月に『文藝』に掲載され、その内容は想像力豊かでありながらも、主人公の孤独感や葛藤が色濃く表現されています。選評では、作家たちから将来性を期待する声が多く寄せられました。特に大岡昇平と吉行淳之介からは、若い才能としての期待が込められたコメントが残っています。

あらすじ

物語の主人公は、「ぼく」という名の19歳の予備校生で、住み込みで新聞配達をしています。彼は、同室の30代半ばの男性・紺野と共同生活を送りながら、自身の感情や社会との関わりに思いを巡らせます。予備校にはほとんど通っていない彼は、新聞配達先で嫌いな家を見つけ、その家の位置を物理のノートに記録します。それに×印をつけ、3つ目の×が付いた家に嫌がらせの電話をかけるという行動に出ます。

一方で、近隣のアパートからは連日激しい夫婦喧嘩の声が響き、紺野はそれに心を痛めることになります。彼が抱える「かさぶただらけのマリアさま」への思いは、彼自身の逃避先となっており、その話を「ぼく」に語りかけます。主人公は、新聞配達員と予備校生という二重のアイデンティティを持ちながら、社会の断片に直面し、鬱屈した感情を抱えるようになります。次第に、東京駅に「玄海号」を爆破するという脅迫の電話をかけることを決めるなど、彼の内面はさらに複雑になっていきます。

主要な登場人物

• - ぼく: 主人公であり、語り手。住み込みで新聞を配達する19歳の予備校生。
• - 紺野: ぼくの相部屋の30代後半の男性。哲学的な面を持つが、彼の話の真偽は不確かである。
• - かさぶただらけのマリアさま: 紺野が尊敬する女性で、彼女自身の実在性は謎に包まれています。

映画化

この物語は1979年に柳町光男によって映画化され、主演は本間優二が務めました。この映画は、キネマ旬報のベストテン入りを果たし、その後の日本映画にも影響を与えました。柳町監督は、資金調達に苦労しつつも、中上健次からの支援を受け、完成に至ったとされています。映画では、主人公の心理的な葛藤が視覚的に表現され、多くの観客に印象を残しました。

まとめ

『十九歳の地図』は、心の中に潜む闇や葛藤に焦点を当てた作品であり、登場人物の内面を深く掘り下げています。中上健次の独自の文体と、映像化された際の表現力が相まって、今なお強い印象を与える短編小説です。この作品は、若者たちが抱える不安定さや、社会との接点を模索する姿を見事に描写し、多くの人に共感を呼び起こします。

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