十人委員会

十人委員会：ローマ共和政における権力と法の変遷

共和政ローマにおいて、紀元前451年に設置された「十人委員会（Decemviri legibus scribundis）」は、平民（プレブス）と貴族（パトリキ）の対立という時代の波乱を背景に生まれた重要な政治機関でした。それまでの慣習法に代わる成文法の制定、訴訟の裁定、祭儀の運営など、広範な権限を掌握しました。

背景：身分闘争と法の刷新

十人委員会の設置は、平民と貴族の長く続いた身分闘争の産物でした。パトリキによる政治・宗教的独占、平民の債務奴隷化、恣意的な法運用など、平民の不満は蓄積していました。古くなった法の刷新という平民の要求は、紀元前486年のカッシウス法案提出を皮切りに、テレンティリウス法案などを通じて、長年にわたる政治的争いを引き起こしました。

紀元前454年、両者の話し合いの結果、古法に代わる新法制定の合意が成立します。アテナイへの使節団派遣を経て、紀元前451年、最初の十人委員会が設置されました。しかし、この委員会はパトリキだけで構成され、その後の十二表法にもパトリキの利害が反映されていると指摘されています。

機能と権限：執政官を超える権力

十人委員会は、活動期間中、執政官や護民官といった他の高官の権限を停止させ、上訴権も及ばない独裁的な権力を持ちました。委員会の各委員は10日ごとに国政を監督し、当番の委員には12人のリクトルが付き従いました。これは、それまで執政官と独裁官のみに許された特権でした。

業績：十二表法の制定

十人委員会の最大の業績は、慣習法やギリシャのソロン法を基にした「十二表法」の制定です。当初は10表からなる法でしたが、検討の結果、さらに2表を追加し、ローマ最初の成文法が完成しました。十二表法は法の恣意的な運用を抑制し、後世のローマ法の基礎となりました。

専制化と崩壊：アッピウス・クラウディウスとウェルギニア

しかし、十人委員会は次第に権力を乱用し、専制的な統治へと傾斜していきました。委員個人に12人のリクトルが付き従うようになり、彼らの横暴は増していきました。アッピウス・クラウディウスによるウェルギニアという若い女性の強引な略取未遂事件は、十人委員会に対する民衆の怒りに火をつけました。

紀元前449年、十人委員会は解散され、通常の政治体制が復活しました。アッピウス・クラウディウスは自殺、他の委員も財産没収や追放という厳しい処罰を受けました。

メンバーと他の十人委員会

第一次十人委員会（紀元前451年）と第二次十人委員会（紀元前450年）のメンバーは、当時の著名な政治家や元執政官などで構成されていました。他にも、民事訴訟裁判官、シビュラの書管理、公有地分配など、様々な目的で設置された十人委員会が存在したことが知られています。

十人委員会の意義

十人委員会は、ローマにおける法の成文化、そして平民と貴族の対立という時代背景の中で、権力と法の変遷を示す重要な出来事でした。その功績と失敗は、後のローマ法の発展に大きな影響を与え、共和政ローマの歴史を理解する上で欠かせない要素となっています。また、その独裁的な権力の行使と、民衆の反乱による崩壊は、権力の限界と民衆の抵抗を示す歴史的教訓となっています。

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