プレブス

プレブス：古代ローマ社会を揺るがした平民階級

古代ローマ社会において、プレブス（plebs）はパトリキ（貴族）に対比される重要な階級でした。一般的には「平民」と訳されますが、その実態は時代とともに変化を遂げました。本稿では、プレブスの起源から共和政、帝政期における役割、そして社会的地位の変遷について詳細に解説します。

プレブスの起源と初期の社会的地位

プレブスの起源は、パトリキと同様に明確には分かっていません。人種的な違いによる区分ではなく、王政ローマ時代には両者の区別は曖昧でした。しかし、王政初期のローマ市民は全てパトリキと呼ばれていたことから、その後、ローマに移住した人々がプレブスと呼ばれたと推測されます。

当初、プレブスはローマ社会において二級市民として扱われ、宗教儀式や行政への参加は許されませんでした。共和政への移行期においても、パトリキによる元老院独占体制が続き、十二表法ではパトリキとプレブスの通婚は禁止されていました。

プレブスの台頭とパトリキとの対立

しかし、プレブスは徐々に勢力を伸ばし、パトリキと対立するようになりました。独自の民会を結成し、モンテ・サクロの丘に立て籠もるなど、強硬な抵抗を展開しました。このプレブスの反発を受け、パトリキは妥協せざるを得なくなります。紀元前494年、プレブスのみが就任できる護民官が設置され、拒否権という強力な権限を与えられました。

この後、裕福なプレブスは元老院議員となり支配階級に加わり、リキニウス・セクスティウス法によってコンスル職もプレブスに開放されました。紀元前1世紀には、プレブス出身の元老院議員が多数を占めるようになり、パトリキとプレブスの違いは次第に意味を失っていきました。

帝政期におけるプレブスの変化

帝政期になると、プレブスの意味合いは変化しました。元老院議員の家系でもなく、エクィテス階級でもないローマ市民を指す言葉として用いられるようになったのです。ローマ帝国が地中海世界を支配する覇権国家となると、ローマ市民全体が属州民や奴隷の上に君臨する支配者階級となり、「パンとサーカス」に象徴される特権を享受する存在となりました。プレブスという呼称は、もはや階級区分としての意味合いを失いつつあったと言えるでしょう。

発音について

日本語では「プレブス」と表記されることが多いですが、古典ラテン語の発音に忠実であれば「プレープス」がより正確です。古典ラテン語では、s の直前の b は [p] と発音され、e は長母音でした。俗ラテン語の時期までは、長母音と短母音の区別が維持されていたためです。

まとめ

プレブスは、古代ローマ社会においてパトリキと対立しながらも、徐々に社会的地位を高めていきました。共和政期には護民官の設置など、政治的な影響力を持つようになり、帝政期にはローマ市民全体が支配者階級となったことで、プレブスという階級区分そのものの意味合いは薄れていきました。プレブスの歴史は、古代ローマ社会のダイナミックな変化を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

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