十分の一刑

十分の一刑 (Decimatio)

十分の一刑（じゅうぶんのいちのけい、羅: Decimatio）は、古代ローマ軍において実施された、兵士に対する非常に厳しい罰則です。これは、軍隊内で反乱や上官への重大な不服従といった重大な違反行為が発生した場合に適用されました。

刑の内容

この刑罰の内容は極めて残酷です。まず、罰を受けるべき集団、例えばコホルス（cohorts）単位の兵士の中から、無作為に10人に1人の割合で選ばれます。選ばれた兵士は、残りの9人によって処刑されます。処刑方法としては、棍棒で殴打したり、石を投げつけたりするなど、集団内で撲殺することが一般的でした。

処刑を免れた兵士たちも、さらなる苦難が待っています。通常の兵士には小麦が支給されていましたが、刑罰を受けた兵士たちには、家畜の飼料として用いられる大麦のみが与えられました。さらに、通常の兵士と同じようにテントで寝泊まりすることは許されず、野営地の外で夜を過ごすことを強いられました。この刑罰は、階級や年齢に関係なく、無作為に選ばれた兵士に適用されました。

刑の目的と影響

十分の一刑は、兵士たちに極度の恐怖を与えることを目的としていました。仲間を自らの手で処刑するという非情な行為は、兵士たちの心に深い傷跡を残し、軍規の遵守を促す効果が期待されました。しかし、司令官にとっても、この刑の執行は大きな決断を伴いました。なぜなら、単純計算で兵力の1割を失うことになるため、戦力低下は避けられません。そのため、十分の一刑は、よほどのことがない限り執行されることはありませんでした。

歴史的な記録

十分の一刑が記録に登場するのは、紀元前471年のことです。共和政ローマが成立して間もない頃、ウォルスキ人との戦いでローマ軍が不名誉な敗北を喫した際に、この刑が執行されました。

その後、スパルタクスの乱の最中である紀元前71年には、マルクス・リキニウス・クラッススによって十分の一刑が復活しました。クラッススは、規律を厳守させるために、この過酷な刑罰を再び導入したのです。

ユリウス・カエサルも、ポンペイウスとの戦いで自らの第9軍団に対してこの刑を施行したという記録がありますが、その真偽は定かではありません。もしカエサルが実際にこの刑を執行していれば、戦力の大幅な減少は避けられず、作戦に大きな影響を与えた可能性があります。そのため、カエサルは実際に刑を執行する代わりに、ヒューマンドラマを演じることで、第9軍団の兵士たちの羞恥心に訴えかけ、戦意高揚を図ったのではないかという見方もあります。

紀元前20年には、ルキウス・アポロニウスが第3軍団アウグスタの一部に対してこの刑を施行し、紀元前17年には、アウグストゥス自身がこの刑を施行したという記録が残っています。

関連事項

ヨセフスの問題：数学的な問題の一種で、十分の一刑の際に誰が処刑されるかを予測する問題として知られています。
ガントレット (刑罰)：軍隊における体刑の一種で、罪を犯した兵士が2列に並んだ兵士の間を通過する際に、殴打されるという刑罰です。

外部リンク

* Decimation （英語）)

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