マルクス・リキニウス・クラッスス

マルクス・リキニウス・クラッスス：富と権力、そして悲劇

マルクス・リキニウス・クラッスス（紀元前115年頃 - 紀元前53年）は、共和政ローマにおける重要な政治家であり、軍人であり、そして何よりも莫大な富を築き上げた人物として知られています。彼は、スパルタクスの反乱を鎮圧し、グナエウス・ポンペイウス、ガイウス・ユリウス・カエサルと共に第一回三頭政治を主導しました。しかし、その富と権力を追い求める過程で、悲劇的な最期を迎えることになります。

生涯

前半生

クラッススは紀元前115年頃に、名門貴族であるリキニウス氏族の一員として生まれました。父は紀元前97年の執政官プブリウス・リキニウス・クラッススであり、彼は三人兄弟の末っ子でした。プルタルコスによれば、兄弟たちは質素な生活を送っており、この経験が後のクラッススの性格形成に影響を与えたとされています。紀元前87年、ガイウス・マリウスとルキウス・コルネリウス・キンナがローマを占拠した際、父と兄は殺害されましたが、クラッススはヒスパニアへと逃れました。

スッラ配下時代

ルキウス・コルネリウス・スッラがローマへ進軍を開始すると、クラッススは彼を支持し、マリウス派の残党討伐に貢献しました。ポルタ・コッリナの戦いでは、スッラ軍の右翼を指揮し、勝利に大きく貢献しました。スッラのプロスクリプティオ（財産没収・追放）を利用して、政敵の財産を買い叩き、莫大な富を築き上げました。銀山や土地を所有し、奴隷を経営に活用することで、さらに財産を増やしました。また、火災を利用して、周辺の土地を安価で買い占めるなど、その蓄財の手腕は際立っていました。

スパルタクスとの対決

紀元前73年に勃発した第三次奴隷戦争（スパルタクスの反乱）において、元老院はクラッススに討伐を命じました。クラッススは自らの財産で訓練した軍を率い、スパルタクス軍と対峙しました。当初は苦戦を強いられましたが、徹底的な訓練と規律によって、ついに紀元前71年、ルカニアでスパルタクス軍を包囲し、壊滅させることに成功しました。6,000人の捕虜をアッピア街道沿いに磔刑に処したことは、彼の冷酷さを示すエピソードとして知られています。

ポンペイウスとの暗闘

スパルタクス討伐の功績はあったものの、ポンペイウスが奴隷軍の残党を討伐したことで、クラッススの評価は相対的に低下しました。紀元前70年、ポンペイウスと共同で執政官に就任しましたが、両者の関係は常に緊張していました。クラッススは、その富と弁舌の才能を活かして元老院での影響力を強めました。

三頭政治

ポンペイウスとクラッススの対立は深刻化していましたが、ガイウス・ユリウス・カエサルの仲介によって、紀元前60年、三者は政治同盟（第一回三頭政治）を結びました。これにより、カエサルは執政官に就任し、クラッススらは長年の懸案事項を解決することができました。しかし、この同盟は、それぞれの野心と利害が複雑に絡み合った、不安定なものでした。

パルティア遠征と死

紀元前55年、再び執政官に就任したクラッススは、シリア属州総督となり、パルティアへの遠征を計画しました。ポンペイウスやルクッルスが成し遂げられなかったパルティア征服の野望を抱いていたのです。しかし、紀元前53年、カルラエの戦いで、スレナス率いるパルティア騎兵部隊に大敗を喫し、クラッスス自身も戦死しました。彼の死は、三頭政治の崩壊を招き、後のローマ内戦へと繋がる要因となりました。

逸話

クラッススは、その莫大な富と、それを蓄積する方法において、様々な逸話が残されています。カエサルがヒスパニア属州へ赴任する際に、債権者への支払いを肩代わりした話や、扇動家シキニウスがクラッススを攻撃しない理由を「角に秣をつけている」と答えた話などが有名です。

マルクス・リキニウス・クラッススは、共和政ローマ末期において、富と権力を手にした野心家でしたが、その野望はパルティアの地で打ち砕かれました。彼の生涯は、ローマ共和政の終焉を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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