十字の描き方

十字の描き方：キリスト教における信仰の象徴

「十字の描き方」は、キリスト教の各教派において、手を使って自分の体の前で十字を描く動作を指します。これは単なる所作ではなく、イエス・キリストが十字架で処刑されたという信仰を表明する行為であり、教派によってその方法や意味合いが異なります。この記事では、正教会、カトリック教会、聖公会、プロテスタントにおける十字の描き方について、詳しく解説していきます。

十字の描き方の多様性とその歴史

十字の描き方は、古代から地域によって様々な形態が存在していました。しかし、なぜこのような違いが生じたのかは、完全には解明されていません。現代では、東方教会（正教会）と西方教会（カトリック教会）の間で十字の描き方が左右逆になっていますが、その理由も不明です。この違いは、東西教会の分裂以前から存在していたと考えられています。

各教派における十字の描き方

正教会

正教会では、「十字を画く」という表現が用いられ、「十字を切る」という表現はあまり使われません。十字を画くことは、信仰を表す「表信」の一つであり、祈りそのものとされています。

指の形と動かし方

右手の親指、人差し指、中指の先を合わせ、薬指と小指を曲げます。この形は、三位一体（父、子、聖霊）とイエス・キリストの神性と人性を表しています。額、胸、右肩、左肩の順に指を動かし十字を画きます。正教会では、カトリック教会とは左右逆の順序で十字を画きます。この際、脇を締めて画くことが推奨され、画き終えた後にお辞儀をすることが多いです。

十字を画く時

十字を画くタイミングは、私祈祷、公祈祷の区別なく、様々な場面で行われます。公祈祷では、祈祷の終結時、聖堂への出入りの際、十字架、福音書、イコンなどに接吻する際、聖書が読まれる時など、多くの場面で行うことが求められます。その他の場面で画くことは禁じられていませんが、お辞儀のみが求められる場合もあります。

十字を画く意味

十字を画くことは、三位一体の神を思い起こし、イエス・キリストの十字架の苦難を記憶する行為です。また、額で「父と」、腹の上で「子と」、右肩で「聖神」、左肩で「の名による、アミン」と心の中で唱えながら画くことで、神への愛と、愛の行いを実践する願いを込めます。

祝福時の十字

司祭が信徒を祝福する際には、指の形と画く順序が異なります。指はイエス・キリストのギリシア語表記の頭文字「ΙΣΧΣ」を象るように整えられ、上、下、左、右の順に空中に十字が画かれます。この時、信徒は十字を画きません。

カトリック教会

カトリック教会では、「十字を切る」「十字を描く」の両方の表現が用いられます。

指の形と動かし方

カトリック教会では、指の形について特別な定めはありません。一般的には、右手の全ての指を伸ばした状態で、額、胸、左肩、右肩の順に十字を切ります。この順序は、正教会と左右逆になります。聖堂に入る際には、聖水に指を浸して十字を切ることが習慣となっています。

十字を切る時

祈りの際や、聖堂への出入り、その他様々な場面で、随時十字を切ることが習慣とされています。三位一体の神を思い、「父と子と聖霊の御名によって」と唱えながら十字を切ります。

祝福時の十字

司教や司祭が信徒を祝福する際には、指を伸ばした右手で、上、下、左、右の順に十字を切ります。この順序は正教会とは異なります。

聖公会

聖公会での十字の切り方は、カトリック教会と同様です。しかし、式文中に十字を切る規定はなく、各信者が慣習的に行っています。ハイチャーチでは多く十字を切る傾向がありますが、ローチャーチではあまり行われません。個人の信仰に基づく動作であるとされています。

十字を切る時

聖餐式や聖書朗読の際、大栄光の歌の最後、聖書朗読の前、福音書朗読の前、会衆の懺悔の後など、様々な場面で十字を切ります。また、祈りの前後、聖堂への出入りの際、不吉なものを感じたときにも切ることがあります。福音書朗読の際には、額、口、胸で小さく十字を切ることがあります。これは、福音書の内容を思い、言葉、行いで実践するという意味を表しています。

プロテスタント

プロテスタントの教派では、十字を切る習慣がない場合が多いです。しかし、一部の教派では、十字を切る習慣が残っています。その場合、カトリック教会に準じた十字の切り方をするか、エヴァンジェリカル・オーソドックス教会のように正教会と同様の切り方をする場合があります。

まとめ

十字の描き方は、キリスト教において重要な信仰表明の一つです。その方法は教派によって異なりますが、イエス・キリストの十字架を記憶し、神への信仰を表明するという意味は共通しています。この記事を通して、十字の描き方に対する理解を深めていただければ幸いです。

もう一度検索