十字架を担うキリスト (ボス、ヘント美術館)

ヒエロニムス・ボス作「十字架を担うキリスト」について

「十字架を担うキリスト」は、16世紀初頭に活躍した初期フランドル派の画家ヒエロニムス・ボス、またはその追随者によって制作された油彩画です。この作品は、新約聖書に記されたイエス・キリストが十字架を背負い、処刑場であるゴルゴダの丘へと向かう受難の場面を描いています。

主題

福音書によれば、キリストは捕らえられた後、鞭打ちの刑を受け、茨の冠を被せられ、嘲笑されました。そして、十字架を背負わされ、ゴルゴダの丘まで歩かされました。キリストは途中で力尽き倒れたため、キュレネのシモンが代わりに十字架を担ぐことになります。また、「ルカによる福音書」には、キリストの後ろに従う群衆や悲しむ女性たちの姿が描かれています。伝説では、聖ヴェロニカが汗を拭うためにキリストに布を差し出すと、その布にキリストの顔が写し取られたとされています。さらに、2人の罪人もキリストと共に処刑場へ引かれ、キリストの両脇で磔刑に処されました。

作品の特徴

ボスは、善と悪の闘争をテーマに、キリストを中心に群がる人々を描いています。この絵画では、空間的な奥行きが排除され、善人と悪人が混在する様子が強調されています。キリストの頭部は、画面を横切る2つの対角線の交点に配置され、十字架や人物が対角線上に配置されています。左下には聖ヴェロニカが、右下には罪人が描かれ、画面全体にわたって人物が配置されています。邪悪な修道士や詐欺師に脅される様子が描かれており、ボスは人物の表情や風貌を通じて善悪の対比を鮮やかに表現しています。グロテスクな顔の人物たちは、受難劇の仮面やレオナルド・ダ・ヴィンチの風刺画を彷彿とさせます。対照的に、キリストの顔は穏やかで、孤独の中でも善が悪に勝つというメッセージが込められています。この表現は、ボスが所属していた信徒同胞団の思想と一致しています。

帰属に関する議論

長年、この作品はボスの真作であるかどうかが議論されてきました。2010年に設立されたボス研究保存プロジェクト（BRCP）は、6年間の研究の結果、この作品をボスの作品とは認めず、1530年から1540年頃にボスの原型を複製した作品であると結論付けました。BRCPは、下絵が他のボスの作品とは異なり、制作過程での変更が見られないこと、人物の形態的な細部が他の作品と異なることを根拠としています。一方で、美術史家・修復家のクリート・ステヤートは、耳の描写など筆遣いがボスの他の作品と一致しており、同じ画家の手によるものだと主張しています。また、ボスの作品には、場面をクローズアップで描いた作品が少ないというBRCPの主張に対して、ボスが「荊の冠」で劇的なクローズアップを用いた事例を挙げ、両作品の比較から同じ特徴が見られると反論されています。このように、この作品の帰属については、現在も議論が続いています。

来歴

この作品は、1902年にヘント美術館によって購入され、現在も同館に所蔵されています。

ギャラリー

[ディテール画像1]
[ディテール画像2]

[ボスの同主題の作品1]
[ボスの同主題の作品2]

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監修、河出書房新社（1988年）

外部リンク

* ヘント美術館公式サイト, ヒエロニムス・ボス『十字架を担うキリスト』

この作品は、ボスの画風を理解する上で重要な作品であり、その帰属に関する議論は、彼の作品をより深く理解するための鍵となります。

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