ゴルゴタの丘

ゴルゴタの丘：イエス・キリストが磔にされた場所

ゴルゴタの丘は、新約聖書においてイエス・キリストが十字架に磔にされたと記されている場所です。この丘は「されこうべの場所」とも呼ばれ、キリスト教において非常に重要な意味を持っています。

名称について

ゴルゴタ（Golgotha）という名称は、『ヨハネによる福音書』によれば、ヘブライ語で「されこうべの場所」を意味するとされています。しかし、実際にはアラム語の「グルガルタ」（gulgaltā`）または「ゴルゴルタ」（golgolta`）が起源であると考えられています。これらの言葉は「頭蓋骨」を意味し、ヘブライ語では「グルゴレト」（גלגלת gulgōleṯ）に相当します。ゴルゴタという名称は、『マタイによる福音書』と『マルコによる福音書』にも見られますが、『ルカによる福音書』ではギリシア語のみが用いられています。

また、日本のカトリック[[教会]]では、ラテン語の「Calvaria」から派生した「カルワリオ」という言葉が使われることがあります。プロテスタントの教会では、英語の「カルヴァリー（Calvary）」がよく用いられます。これらの言葉はすべて「頭蓋骨・髑髏」という意味を持っています。日本ハリストス正教会では、教会スラヴ語の「Голгоѳа」から「ゴルゴファ」と転写されます。

名前の由来

ゴルゴタの名称の由来にはいくつかの説があります。

アダムの墓説

一説には、人祖アダムの墓がゴルゴタの丘にあったとされています。3世紀の神学者オリゲネスによれば、この説は当時のユダヤ人キリスト教徒の間で広まった口伝であるとされています。伝説によれば、アダムは世界の中心とされる神殿の丘の下に眠っており、この伝説がゴルゴタに当てはめられたと考えられています。しかし、現在のユダヤ教では、アダムの墓所はマクペラの洞穴にあるとする伝承が一般的です。オリゲネスの説は後にキリスト教圏に広まりましたが、懐疑的な見解も存在しました。

刑場説

ヒエロニムスは、ゴルゴタが当時エルサレムにおける刑場であり、「されこうべの場所」とは死刑囚の頭蓋骨が散在する「斬首場」を意味するという説を唱えました。また、地形が頭蓋骨に似ていることから、そのように呼ばれたという見解もあります。

福音書におけるゴルゴタ

福音書によれば、イエスが処刑された場所はエルサレムに近く、人通りの多い道路の近辺にあったとされています。『ヘブライ人への手紙』には、イエスが「門の外で苦難に遭われた」と記されています。実際、古代ローマでは、罪人を十字架にかける際、多くの人々に見せることで恐怖を与えるために、人通りの多い道路が選ばれたとされています。また、ゴルゴタの周辺には園があり、イエスの墓もその中にありました。死体は穢れたものとされていたため、墓地は通常、町や村の外に設けられました。

これらの記述から、ゴルゴタはエルサレムの城壁外に位置しながらも、市街地からそれほど離れていなかったと推測できます。

ゴルゴタは丘なのか

ゴルゴタはしばしば「丘」または「山」と呼ばれますが、聖書には具体的な地形に関する記述はありません。むしろ、『ヨハネによる福音書』などから、ゴルゴタは特定の丘の名前ではなく、イエスが処刑された場所とその墓がある園を含む一帯の地名であると考えられます。

ゴルゴタを小山とする最古の記録は333年に書かれた『ボルドー巡礼記』ですが、丘または山として一般的に認識されるようになったのは6世紀以降です。この認識が広まった背景には、コンスタンティヌス1世が創建した聖墳墓教会の中にある「カルワリオの岩」と呼ばれる小丘（巨岩）の存在があると考えられています。この場所にはかつてウェヌス神殿がありましたが、教会が建てられた際に、キリスト教の勝利を示すために十字架が掲げられました。その後、イエスが磔にされた場所はこの岩の上であると信じられるようになり、ゴルゴタを丘とする通説が広まりました。

所在地に関する諸説

ゴルゴタの正確な所在地については、いくつかの説があります。

聖墳墓教会説

この説では、ゴルゴタは聖墳墓教会の境内にあるとされます。この場所は、ローマ都市アエリア・カピトリナ時代にウェヌス神殿が建てられていましたが、現地のキリスト教徒は、この神殿の敷地内にイエスが磔にされた場所と墓があると伝えていました。326年にコンスタンティヌス帝の母ヘレナがエルサレムを訪れた際、イエスの墓と聖十字架が発見され、教会が建てられました。

発掘調査によれば、この周辺は紀元前8世紀から紀元前1世紀まで石灰岩の採石場として使用されていました。1世紀には廃坑となり、墓が掘られ、畑として利用されました。ユダヤの伝統では、城内に死者を埋葬することが禁じられていたため、この墓地はもともとエルサレムの街の外にありましたが、城壁の拡大によって街の中に位置することになったと考えられます。

「カルワリオの岩」の形状については、石切場として使用されていた時代、ウェヌス神殿が建立された時、教会が建てられた時など、さまざまな説があります。また、近隣の墓に付属する慰霊塔の跡であるとする説もあります。しかし、岩の頂上は狭く、傾斜が急なため、イエスと2人の犯罪人の十字架が立てられた場所としては不自然であると指摘されています。そのため、聖墳墓教会をゴルゴタとする学者の中にも、イエスの十字架が立てられた場所は別の場所であると主張する者がいます。

墓の園説

この説では、エルサレム内城の北にある園の墓付近の「されこうべの丘」がゴルゴタであるとされます。聖墳墓教会が城内にあることから、その伝統に疑問を呈する説は16世紀から存在しましたが、提唱者のほとんどはプロテスタントでした。エドワード・ロビンソンは、「聖墳墓教会内のゴルゴタと墓はイエスの十字架と復活の場所ではない」と断言し、西または北に向かう街道のどこかにあると主張しました。

オットー・テニウスは、ダマスカス門近くの「エレミヤの洞窟」と呼ばれる場所をゴルゴタであると提唱し、ヘンリー・トリストラムやクロード・コンダーらが支持しました。特に、軍人チャールズ・ゴードンがこの説を強く支持し、彼の影響で「されこうべの丘」がゴルゴタとして広まりました。ゴードンは、近くで発見された洞窟墓をイエスの墓としましたが、この墓は1世紀の墳墓ではないため、イエスの墓とすることは難しいと考えられています。この場所を管理する園の墓協会は、「この場所が本当にイエスの死と復活の場所であったかは不明だが、その出来事を想像する助けになるだろう」という見解を示しています。

その他の説

ゴルゴタをオリーブ山の麓とする説や、エルサレムの南にあるヒノムの谷とする説も存在しますが、これらの説は考古学的にも歴史的にも支持されていません。

転用

ヨーロッパでは、イエスの受難を再現した教会群が「カルワリオの丘」と呼ばれることがあります。また、西ヨーロッパの一部では、十字架上のイエスを中心とする群像が公の場に建てられ、「カルワリオ」と呼ばれています。スペインやポルトガルでは、これらの群像は「クルセーロ」または「クルゼイロ」と呼ばれます。

ゴルゴタの丘は、キリスト教において非常に重要な場所であり、その正確な位置については様々な説が存在しています。しかし、どの説が正しいとしても、ゴルゴタがイエス・キリストの受難と救いの象徴であることに変わりはありません。

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