十川信介

十川信介：近代日本文学を照らし続けた研究者

十川信介(1936-2018)は、日本近代文学研究において卓越した功績を残した学者です。北海道旭川市に生まれ、京都大学文学部国文学科を卒業後、同大学院博士課程を修了。京都府立大学での講師、助教授を経て、1978年より学習院大学教授を務め、2007年に定年退職、名誉教授となりました。

その研究人生は、京都大学で中村光夫教授の指導の下、二葉亭四迷研究から始まりました。緻密な考証と独自の視点に基づいた研究は、多くの研究者から高く評価され、1981年には『島崎藤村』で亀井勝一郎賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝きました。

十川氏の研究は、近代日本文学における主要作家への深い理解に基づいていました。とりわけ、島崎藤村、二葉亭四迷への造詣は深く、彼らの作品世界を多角的に分析し、新たな解釈を提示しました。単なる作品論にとどまらず、当時の社会状況や思想潮流を踏まえた上で、作家たちの内面や創作活動の背景を解き明かしていく、その研究姿勢は多くの研究者に影響を与えました。

彼の業績は、単著や編著書という形で多数の成果として結実しています。『二葉亭四迷論』、『島崎藤村』といった代表作は、今日でも近代文学研究の重要な参考文献として活用されています。また、『「ドラマ」・「他界」　明治二十年代の文学状況』、『明治文学　ことばの位相』、『近代日本文学案内』など、近代日本文学の全体像を俯瞰できる著作も多く手がけました。これらの著作は、専門家だけでなく、一般読者にとっても近代文学への理解を深める上で貴重な資料となっています。

さらに、十川氏は、後進の育成にも尽力しました。学習院大学での教鞭を通して、多くの学生に近代文学研究の楽しさや奥深さを伝えました。彼の講義は、常に熱意に満ち溢れ、学生たちに深い感銘を与えたと伝えられています。

十川信介の研究は、近代日本文学の理解を深める上で欠かせない存在であり、その功績は、これからも長く記憶に留められるでしょう。2018年11月18日、虚血性心疾患のため81歳で逝去されましたが、彼の残した著作は、これからも多くの読者にインスピレーションを与え続け、近代日本文学研究をさらに発展させる力となるでしょう。

主な著書・編著書

『二葉亭四迷論』(筑摩書房)
『島崎藤村』(筑摩書房)
『「ドラマ」・「他界」　明治二十年代の文学状況』(筑摩書房)
『「銀の匙」を読む』(岩波書店)
『明治文学 ことばの位相』(岩波書店)
『近代日本文学案内』(別冊岩波文庫)
『落ち葉のはきよせ　近代文学研究余録』(私家版)
『島崎藤村　「一筋の街道」を進む』(ミネルヴァ書房)
『夏目漱石』(岩波新書)
『島崎藤村 鑑賞日本現代文学4』(編・解説、角川書店)
『二葉亭四迷全集 別巻』(編・解説、筑摩書房)
『藤村文明論集』(編・解説、岩波文庫)
『藤村随筆集』(編・解説、岩波文庫)
『明治文学回想集』(編・解説、岩波文庫)
『漱石追想』(編・解説、岩波文庫)

主な受賞歴

島崎藤村』'>[亀井勝一郎賞]

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