古今著聞集

古今著聞集：鎌倉時代の世相を映す鏡

『古今著聞集』は、鎌倉時代初期（13世紀前半）に橘成季（いがもりたちばな なりすえ）によって編纂された説話集です。単に『著聞集』と呼ばれることもあります。726もの説話を収録する大作で、『今昔物語集』に次ぐ規模を誇り、宇治拾遺物語とともに日本三大説話集の一つに数えられています。1254年（建長6年）頃に完成した後、増補が加えられたと考えられています。

編纂の背景と目的

『古今著聞集』の序文には、宇治大納言物語や江談抄を参考に、実録を補うことを目的として編纂されたことが記されています。橘成季は官職を辞した後、自身の豊富な知識と経験を活かし、様々な文献や聞き込み調査を通じて説話を集めました。その際、『台記』『中右記』『江談抄』などの記録類を精査し、各地を訪れ、人々から話を収集したとされています。しかしながら、現存する『古今著聞集』は、橘成季のみが編纂したものではなく、後世に他の説話集からの追記が行われた部分も含まれています。

多様な説話の宝庫：30篇の構成

『古今著聞集』は、神祇、釈教、政治、忠臣、文学、和歌、音楽、書道、武勇、芸能、孝行、恋愛、奇譚など、多岐にわたる30の分類（篇）から構成されています。六国史以降、平安中期から鎌倉初期までの幅広い時代を網羅し、王朝社会から庶民社会まで、多様な層の人々の生活や出来事が描かれています。各篇は、その内容を簡潔にまとめた序文で始まり、年代順に説話が配列されています。その構成は、勅撰集を模倣した整然としたもので、まるで百科事典のような性格を持っています。特に芸能に関する説話が多いのは、琵琶や詩歌、絵画などに優れた才能を持っていた橘成季自身の経験や関心の反映と言えるでしょう。

王朝への憧憬と現代への批判

『古今著聞集』に収録されている説話の多くは王朝時代に属するもので、鎌倉時代のものは比較的少ないです。これは、名門橘氏出身の橘成季が王朝社会に強い憧憬を抱いていたこと、そして、当時を「末代」あるいは「世の末」と捉え、批判的な意識を持っていたことを反映していると考えられます。しかしながら、一方で「興言利口」篇などに代表される、鎌倉時代の風俗や世相を反映した説話も含まれており、それが作品全体の価値を高めています。

摂関家寄りの視点と後世への影響

橘成季は関白九条道家の近習であったため、『古今著聞集』には摂関家寄りの視点が見て取れます。また、その影響は大きく、江戸時代には多くの『著聞集』が編纂され、それらは『古今著聞集』のスタイルや内容を踏襲しています。

登場人物

『古今著聞集』には、後鳥羽院、鳥羽法皇、藤原頼長、藤原定家、源頼朝、源博雅、弘法大師など、歴史上著名な人物が多く登場します。これらの実在の人物を題材とした逸話を通して、歴史や文化、社会の様々な側面が生き生きと描かれています。

まとめ

『古今著聞集』は、単なる説話集にとどまらず、鎌倉時代の社会や文化を理解するための貴重な資料です。多様な説話を通して、王朝社会の華麗さや庶民の暮らしぶり、歴史上の出来事などを垣間見ることができ、その百科事典的な性格と、作者の思想や時代背景が織りなす魅力的な作品となっています。 歴史、文学、文化に興味のある読者にとって、必読の一冊と言えるでしょう。

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