菅原為長

菅原為長（すがわら の ためなが）

菅原為長は、鎌倉時代前期に活躍した公卿であり、その卓越した才能と長寿によって、異例の昇進を遂げた人物です。大学頭・菅原長守の子として生まれ、紀伝道（文章道）の家柄を受け継ぎました。

生涯

為長は、後白河院政期後期に頭角を現し、元暦2年（1185年）に秀才、文治3年（1187年）には献策が認められ、従五位下・右衛門少尉に叙任されました。この頃から、五摂家の一つである九条家の家司として仕え、九条家の子弟に対して家業である紀伝道の教育を担当しました。その後、兵部少輔、式部少輔、大内記などを経て、後鳥羽院政期初頭の元久元年（1204年）に従四位下・文章博士に任じられます。同年には土御門天皇の侍読となり、以降、順徳天皇、後堀河天皇、四条天皇、後嵯峨天皇の五代にわたり侍読を務めました。

為長は、承元2年（1208年）に従四位上、承元4年（1210年）には正四位下へと昇進。同じく菅原氏の菅原在高が公卿に昇った翌年、建暦元年（1211年）には為長も従三位に叙せられ、公卿の仲間入りを果たしました。建保3年（1215年）には大蔵卿を兼任し、その職を没するまで約30年もの間務めました（参議を務めた2年間を除く）。

承久3年（1221年）には正三位・式部大輔に叙任されます。同年には承久の乱が発生しますが、為長は後鳥羽上皇や順徳上皇に近侍していたにも関わらず、連座を免れました。乱後、親幕府派の九条道家が権力を握ると、為長は平経高や吉田為経らと共に道家を補佐しました。嘉禎元年（1235年）には、長年の悲願であった参議に任じられました。菅原氏からの議政官の任官は、平安時代中期の菅原輔正以来、実に226年ぶりであり、この任官は世間の話題となりました。また、藤原定家の『明月記』には、この年に九条道家が後鳥羽上皇と順徳上皇の還京を幕府に求めたものの拒否された際、道家に進言したのは為長であったと記されています。この頃には、北条政子の求めに応じて『貞観政要』を和訳したと伝えられています。

嘉禎3年（1237年）には参議を辞して従二位に叙せられ、その後は没するまで大蔵卿と勘解由長官を兼任しました。仁治元年（1240年）には正二位に至りました。寛元4年（1246年）に89歳で亡くなりました。死因は食事が取れなくなったこと、あるいは腫れ物によるものとされています。

為長の事績と子孫への影響

為長が正二位・参議・大蔵卿という異例の昇進を遂げた背景には、89歳という長寿に加え、以下の要因が挙げられます。

30年以上にわたる大蔵卿在任中に蓄積した経済力。
家業の紀伝道におけるライバルであった大江氏が、朝廷の中心から離脱したこと。
為長が仕えた九条家、特に九条道家が鎌倉幕府に対して親幕府的な態度をとっていたために、承久の乱後も道家の政治顧問として朝廷の中枢に留まることができたこと。為長と幕府との関係は、北条政子から『貞観政要』の和訳を依頼されたことからも伺えます。
五代の天皇にわたり侍読を務めたことからもわかるように、九条家のブレーンとしての能力が高かったこと。同時期に九条家に仕えた藤原定家からも高く評価されていました。

為長は、世間から「文道棟梁」「今世之宏才」「当代大才」「国之元老」といった賛辞を送られました。これらの評価は、為長の子孫にとって大きな栄誉となり、明治維新まで堂上家（高辻家、五条家、東坊城家など）として存続できた大きな要因となりました。

著作

為長の主な著作には、『字鏡集』『文鳳抄』『国史綱要』などがあります。『帝国系図』は散逸しましたが、多数の詩文や願文を残し、漢籍の保存にも貢献しました。日記としては、『菅大府記』（散逸）や『編御記』（『為長卿記』）があります。

また、『十訓抄』の著者の一人として擬せられています。

官歴

為長の官歴は以下の通りです。

寿永2年（1183年） 正月26日：給穀倉院学問料
元暦2年（1185年） 正月20日：秀才
文治2年（1186年） 2月20日：越前掾
文治3年（1187年） 正月16日：献策。正月23日：大舎人助。5月4日：右衛門少尉、検非違使宣旨。12月29日：従五位下
建久元年（1190年） 10月26日：兵部少輔
建久4年（1193年） 正月21日：従五位上（策労）
建久6年（1195年） 2月2日：遠江権介。12月9日：式部少輔
正治元年（1199年） 正月5日：正五位下（策労）。正月30日：越前権守
正治2年（1200年） 10月11日：大内記
建仁2年（1202年） 正月21日：阿波介
建仁3年（1203年） 11月13日：服喪（父）。12月28日：復任
建仁4年（1204年） 正月13日：文章博士。4月12日：従四位下
元久2年（1205年） 12月：侍読
承元2年（1208年） 正月5日：従四位上（八条院御給）
承元4年（1210年） 正月5日：正四位下（臨時）
建暦元年（1211年） 12月17日：式部権大輔。12月2日：従三位、大輔如元
建暦2年（1212年） 正月13日：兼備後権守
建保2年（1214年） 正月13日：辞権大輔（男長貞任大内記）
建保3年（1215年） 4月11日：兼大蔵卿
建保5年（1217年） 正月28日：兼長門権守
承久3年（1221年） 正月13日：正三位。閏10月18日：式部大輔
承久4年（1222年） 正月24日：豊前権守
安貞2年（1228年） 2月1日：甲斐権守
安貞3年（1229年） 11月：侍読
文暦2年（1235年） 正月23日：参議、大輔如元。6月17日：勘解由長官。日付不詳：大嘗会検授。11月19日：軽服
嘉禎2年（1236年） 2月29日：兼播磨権守
嘉禎3年（1237年） 12月25日：辞参議、大蔵卿従二位、式部大輔勘解由長官播磨権守如元
暦仁2年（1239年） 正月24日：越後権守。4月23日：辞長官（以外孫後国叙正五位下）
延応2年（1240年） 11月12日：正二位（朔旦臨時）
寛元4年（1246年） 3月28日：薨去

系譜

父：菅原長守
母：不詳
妻：中原師茂の娘
男子：菅原長貞（?-1226）
男子：菅原公良（1195-1260） - 菅原公輔の養子
妻：弁曉法印の娘
男子：高辻長成（1205-1281） - 高辻家の祖（半家）
男子：五条高長（1210-1285） - 五条家の祖（半家）
生母不明の子女
男子：菅原長明
男子：長円
女子：藤原俊親室

参考文献

正宗敦夫編『諸家伝』日本古典全集刊行会、1940年
『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社、1994年

もう一度検索