千住製絨所

千住製絨所：日本の近代化を支えた官営工場

千住製絨所は、かつて東京都荒川区南千住に存在した官営の工場です。明治新政府によって設立され、主に軍服や制服に使用される被服生地を製造していました。

歴史

明治維新後、新政府は軍服や制服を輸入に頼っていましたが、外貨の減少を抑えるため、国産化が急務となりました。その第一歩として、1875年（明治8年）9月には千葉県に牧羊場が設けられ、羊毛の生産が開始されました。

同年、被服製造技術を学ぶためドイツに派遣されていた井上省三が帰国。1879年（明治12年）9月27日、東京・南千住の荒地に千住製絨所が完成し、操業を開始しました。

しかし、1883年（明治16年）12月29日、火災により製絨所は主要設備をほとんど焼失してしまいます。井上省三は復興に尽力しますが、1886年（明治19年）に病のため亡くなりました。その後、1888年（明治21年）に陸軍省の管轄となり、工場を拡張。陸軍が必要とする布地や毛糸などを生産・管理しました。

千住製絨所は、他官庁や民間からの製造・研究依頼、技術指導、技術者養成にも対応し、日本の繊維・被服産業の発展に大きく貢献しました。

1945年（昭和20年）、敗戦により操業を停止。土地建物は足立区の民間企業・大和毛織に売却されましたが、業績不振により1960年（昭和35年）に閉鎖され、80余年の歴史に幕を閉じました。

跡地の一部は名古屋鉄道に売却された後、映画会社の大映が取得。1962年（昭和37年）には、大映がオーナー企業であったプロ野球球団・大毎オリオンズ（現・千葉ロッテマリーンズ）の本拠地である東京スタジアムが建設されました。

しかし、大映の経営破綻により、東京スタジアムは1972年（昭和47年）に閉鎖。その後、施設は撤去され、現在は荒川区が運営する荒川総合スポーツセンター、草野球場、警視庁南千住警察署となっています。

都立荒川工業高等学校付近には煉瓦製の塀が残っていましたが、1990年代から2000年代にかけて大部分が撤去されました。現在、ライフ南千住店の駐輪場に産業遺構として一部が保存されています。また、荒川総合スポーツセンター付近には井上省三の銅像・記念碑が建てられています。

井上省三

千住製絨所の初代所長である井上省三（1845年 - 1886年）は、長門国（現・山口県）出身で、奇兵隊隊長として倒幕運動に参加。明治維新後、ドイツに留学し、毛織技術を習得しました。帰国後、千住製絨所の所長に就任し、工場の発展に尽力しました。

栄典

1886年（明治19年）7月8日 - 従六位

歴代所長

山本昇 陸軍主計監：1936年12月1日 - 1939年8月1日
* 森武夫 陸軍主計少将：1939年8月1日 - 1940年4月1日

千住製絨所は、日本の近代化を支えた重要な産業遺産の一つと言えるでしょう。

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