千億の恋人

「千億の恋人」（せんおくのこいびと）は、日本の歌手・麻倉未稀が1986年3月21日にリリースした、通算15枚目となるシングル盤レコードです。この作品は、キングレコードのサブレーベル、CRYSTAL BIRDより市場に送り出されました。

このシングルは、同年中に発表される彼女の9作目のオリジナルアルバム『WARM ICE "AUSSIE BLEND"』に先駆けて先行シングルとして企画されました。アルバムタイトルにもあるように、この時期の麻倉未稀の音楽制作は国際的な広がりを見せており、本作に収録された楽曲のレコーディング作業も、オーストラリアのシドニーにて行われています。異国の地での制作は、当時の彼女の音楽性やサウンドプロダクションに新たな彩りをもたらしました。

特筆すべき点として、「千億の恋人」とカップリング曲の「モノクローム」の両楽曲が、株式会社クラリオンが手掛けていた車載用音響機器、特にカーオーディオの「シティ・コネクション」シリーズのテレビコマーシャルに起用されたことが挙げられます。当時のテレビCMは楽曲のヒットに大きく貢献する重要なメディアであり、主要メーカーの主力商品のタイアップは、アーティストにとって楽曲を広くアピールする絶好の機会でした。この強力なタイアップにより、シングルに収められた二つの楽曲は、多くの人々の耳に触れることとなりました。

シングルには二つの対照的な楽曲が収められています。

まず表題曲の「千億の恋人」は、作詞をJUKO、作曲および編曲を佐藤準が担当しています。佐藤準はその時代を代表するアレンジャーの一人であり、洗練されたサウンドで楽曲を彩りました。この曲が9thアルバムの先行シングルとして位置づけられていたことから、アルバム全体のトーンを予告する、当時の麻倉未稀の代表的なサウンドを示す楽曲であったと言えるでしょう。

一方、カップリング曲として収録された「モノクローム」は、作詞を麻倉未稀自身が手掛け、作曲はMICHAEL LIN、編曲は戸塚修が担当しています。興味深いのは、この「モノクローム」が、本作のために新たに制作された楽曲ではなく、実は前年にリリースされた彼女の8作目のオリジナルアルバム『FOREIGNER』に既に収録されていた楽曲からのシングルカットであったという点です。異なる時期に制作された楽曲が、共に最新シングルに収録され、しかも同じCMシリーズのタイアップを獲得したという構成は、当時の企画戦略の一端をうかがわせます。

このように、「千億の恋人」シングルは、最新アルバムへの橋渡しという役割を持ちながら、クラリオン「シティ・コネクション」CMタイアップという強力なメディア展開によって広く認知された作品です。異なるアルバムから選ばれた2曲が両A面的な扱いでプロモーションされたこともあり、麻倉未稀の1980年代半ばにおけるキャリアにおいて、重要な位置を占めるシングルであると言えます。

本稿の作成にあたっては、オリコンが発行した『SINGLE CHART-BOOK COMPLETE EDITION 1968-2005』などを参考にしています。

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