千早

千早（ちはや）

千早（ちはや、襅とも表記）とは、日本の歴史の中で神道の儀式において用いられてきた伝統的な衣料品であり、特に女性によって着用されてきました。その起源は古く、古代の簡素な衣類である貫頭衣（かんとうい）に求められるとされています。

歴史的背景と変遷

千早の原型は、一枚の白い無地の絹布の中央に縦の切り込みを入れ、そこから頭を通して着る、極めてシンプルな貫頭衣のようなものでした。これは、神事の際に着用していた他の装束の袖や裾を内部に収め、動きを妨げないようにするための機能的な目的があったとも考えられています。

時代が下ると、千早は宮中における重要な儀式、例えば大嘗祭（だいじょうさい）や新嘗祭（にいなめさい）などで、神饌（しんせん：神に供える飲食物）を運ぶ采女（うねめ）や女官（にょかん）の装束として用いられるようになります。この過程で、形態は次第に変化を遂げました。当初の一枚布から二幅構成となり、前は胸元あたりで垂らし、後ろ側を長く伸ばす形状に変化しました。また、脇は縫われず、前で紐を結んで固定する形式の袖のない短めの衣となりました。これは、神事における特定の動作を考慮した変化であったと考えられます。

近世に入ると、千早のデザインにも変化が現れます。無地の白い絹地に加え、青摺（あおずり）と呼ばれる技法が用いられるようになります。これは、山藍（やまあい）という植物の汁を使って、草花や流水などの模様を描き出すもので、清らかさの中に自然の美しさを表現する装飾となりました。

現代における千早

現代の日本において、千早は主に神職や巫女（みこ）が公式な神事や祭典において着用する、格式の高い装束の一つとして位置づけられています。特に巫女が着用する場合、通常着ている白衣（はくい）と緋袴（ひばかま）という基本的な装束の上に羽織る本式の装束として、水干（すいかん）という他の神職装束と共に用いられています。

現代の千早の形態は、日本の伝統的な単物（ひとえもの：裏地のついていない着物）の和服に似ていますが、いくつかの特徴的な違いがあります。身頃は二幅（にふく：布二枚分）、袖は一幅（いっぷく：布一枚分）で作られますが、脇は縫い合わせられていません。また、着物の前身頃に重なる部分である衽（おくみ）もありません。

最も特徴的なのは袖の部分です。現代の千早には袖があるように見えますが、これは布を筒状に縫い合わせているのではなく、布端を内側に入れ込むようにして、紙縒（こより）という細い紙紐で留められています。これは、千早がかつて袖を持たない簡素な形状であったことの名残とされています。脇が縫われていないことや衽がないことも、古代の貫頭衣から変化した過程を示す特徴と言えるでしょう。

清らかな白色を基調とし、神聖な儀式にふさわしい簡素ながらも格式ある装いである千早は、日本の神道の伝統と歴史を感じさせる重要な衣装です。

もう一度検索