千道安

千道安（せん の どうあん）

千道安は、天文15年（1546年）に、茶聖と称される千利休の長男として生まれました。幼名は紹安といい、後に道安と改名。可休斎、不休斎、眠翁、泉南道安老人など、多くの号を持ちました。堺千家の祖であり、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した茶人です。

生涯

道安は、千利休と宝心妙樹の間に生まれましたが、母の死後、利休が再婚したことで、父との関係が悪化。若くして家を出ました。その後、父利休とは和解したものの、利休の再婚相手の連れ子である千少庵とは、生涯にわたり不仲でした。そのため、二人が同じ茶席に同席することはなかったと伝えられています。

茶の道では、その才能を認められ、豊臣秀吉の茶頭八人衆に数えられるまでになりました。しかし、父利休が秀吉の怒りを買い切腹を命じられると、道安も飛騨高山藩主の金森長近に預けられ、蟄居、謹慎を強いられました。金森長近も茶人であったことから、道安は彼と親交を深めたとされています。

文禄3年（1594年）に赦免され、堺に戻り千家の家督を継ぎました。この際、少庵の息子である千宗旦によって千家再興が果たされました。秀吉の死後は、細川三斎に招かれ、茶頭として豊前水崎で三百石を拝領しました。

慶長12年（1607年）に豊前の地で没し、大宰府の崇福寺に葬られました。現在の墓所は、大阪府堺市の南宗寺と徳島県徳島市の本覚寺にあります。

人物評

道安は、その生涯において、義弟である千少庵と比較されることが多くありました。少庵の方が優れていたとする逸話も残っていますが、これは、現存する資料の多くが少庵系統の三千家のものであることを考慮する必要があります。しかし、その中でも道安の才能を賞賛する記述が散見されることから、当時、道安が傑出した才能を発揮していたことが窺えます。また、少庵には先天的な足の不自由があったにもかかわらず、三千家系統の資料の中には、この事実を道安に置き換えるなど、事実関係に齟齬があることも確認されています。

利休が二人に竹の蓋置を選ばせた際、道安は節のあるごつごつとしたものを選んだのに対し、少庵は節のない滑らかなものを選んだというエピソードがあります。このことから、道安は磊落な性格、少庵は繊細な性格であったとされています。

また、秀吉が利休に「大仏の内陣で茶の湯をすべき者は誰か」と尋ねた際、利休が道安を推挙したという逸話も残っています。さらに、道安の茶会に招かれた利休が、露地の飛び石の据え方がひとつだけ高いことを指摘したところ、道安は中立ちの間にそれを直したという逸話もあります。少庵が千家を再興した後、秀吉に呼ばれた道安が御前で茶を点てたところ、秀吉は「宗易（利休）の手前によく似ている」と褒めたと伝えられています。

茶人としての事績及び評価

道安の茶は、繊細な少庵の茶を静とするならば、動であると評されます。創作意欲が旺盛で、その工夫は、簡素さの中に力強さを求めるものであったようです。

道安が金属片を使って灰をならしていたことが、金属製の灰匙の始まりであるとされています。当初、この灰匙は利休から「飯杓子」と嘲笑されましたが、後に利休自身も使用するようになったと伝えられています。

塗り蓋を拭いてから茶巾を置くという作法も、道安が始めたものとされています。その他、道安囲、道安風炉を考案するなど、茶道における多くの功績を残しました。

代表的な弟子

桑山貞晴（宗仙）：片桐石州の師。
金森可重（雲州）：秀吉・徳川家康に仕えた武将。金森重近（宗和）の実父。道安と交流があったが、茶の湯の師は古田織部であったともされる。

千道安が登場する作品

* 漫画「花の慶次 ―雲のかなたに―」

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