半井瑞策

半井瑞策（なからい ずいさく）

半井瑞策は、室町時代後期から安土桃山時代にかけて活躍した医師であり、名は光成（みつなり）と称しました。瑞策は通称であり、晩年には剃髪し、二代驢庵（ろあん）と号しました。彼は当時の医学界において名医として名を馳せ、正親町天皇から『医心方』の写本を下賜されるほどの人物でした。

生涯

半井瑞策は、初代驢庵である半井明親（なからい あきちか）の次男として生まれました。兄には半井明英（寿琳、閑嘯軒）がいます。医学に優れた才能を発揮した瑞策は、父の跡を継いで医業に専念しました。晩年に剃髪してからは、父の号である「驢庵」を受け継ぎました。

瑞策の子孫が「驢庵」の号と典薬頭（てんやくのかみ）を世襲するようになったため、兄の明英が分家した形となりました。しかし、そのためか、瑞策を明英の子とする系図も存在します。

正親町天皇（在位: 1557年 - 1586年）の時代には、瑞策に法印（ほういん）の位を授ける案が検討されました。しかし、当時すでに法印の位を持つ者がいたため、その上位に瑞策を置くことができませんでした。そこで、天皇は瑞策に深黒の素絹（くろきす絹）の着用を許可し、僧綱（そうごう）を経ずに法印の上席とするという異例の措置を取りました。これは、他の医官には見られない半井家特有の待遇となりました。

また、天皇の勅命により、これまで「通仙軒（つうせんけん）」と称していたものを「通仙院（つうせんいん）」と改め、院号を名乗ることを許されました。さらに、『医心方』の写本を天皇から下賜されました。

瑞策は織田信長とも親交があり、信長が京都に滞在する際には、半井家の屋敷を宿舎として提供していました。また、豊臣秀吉からも手厚い待遇を受けました。

文禄5年/慶長元年（1596年）8月25日に死去しました。ただし、「半井家系図」では天正5年（1577年）8月25日没、享年75歳とされており、『寛政重修諸家譜』はこの没日を採用しています（享年の記載はありません）。瑞策は、大徳寺真珠庵（だいとくじ しんじゅあん）に葬られました。

逸話

瑞策は名医として知られ、その医術に関する様々な逸話が残されています。

『寛政重修諸家譜』には、以下のような話が掲載されています。ある時、近江国（おうみのくに）の人物を診察した際、瑞策は「必死の脈（ひっしのみゃく）」があると診断しました。その人物は当時病気を患っていなかったため、周囲は瑞策の診断を不審に思いましたが、翌日、その人物は矢に当たって死亡しました。この出来事により、世間の人々は瑞策の医術の精妙さに感嘆したと伝えられています。

正親町天皇から下賜された『医心方』の写本は、典薬頭半井家において門外不出の書として大切に保管され、現代にまで伝えられています。この写本は、『医心方』の現存する最古の写本であり、「医心方（半井家本）」として国宝に指定されています。

大徳寺の塔頭である真珠庵は、瑞策の父である明親（初代驢庵）の墓所であり、瑞策とその家族も同所に葬られました。真珠庵には、瑞策夫妻の肖像画が伝えられています。

正親町天皇から御殿一式を拝領した瑞策は、そのうち書院一棟を真珠庵に寄進し、「通遷院（つうせんいん）」として現存しています（「眞珠庵通仙院」として重要文化財に指定）。ただし、通遷院（通仙院）については、江戸時代初期に正親町天皇の女御（にょうご）の化粧殿を移築したものという説も存在します。

瑞策が拝領した御殿の他の部分は、瑞策の子孫である半井成近（なからい しげちか）の時代に江戸の元吉原（もとよしわら）の屋敷に移されましたが、明暦の大火（めいれきのたいか）によって焼失しました。また、瑞策の甥の手によって一部が堺に移されたとも伝えられており、『堺市史』（1929年）によれば、堺市熊野町東一丁の半井家邸宅には唐破風造（からはふづくり）の玄関を有する建物があったとされています。

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