卑日

「卑日(ひにち)」とは、日本経済新聞社の編集委員である鈴置高史氏が、自身のコラムで提唱した造語です。これは、近年の韓国における対日感情が、従来の「反日」とは質的に異なるものに変容しているという認識に基づいています。

鈴置氏によると、従来の「反日」は、日本に対する嫉妬や、見下されることへの反発が原動力であり、その目的は、経済的利益や謝罪など、日本から何かを「得る」ことにありました。しかし、「卑日」は、日本を貶めること自体が目的であり、日本から何かを得ようとするものではないと主張しています。彼は、この「卑日」を、世界を舞台に日本を貶めることで快哉を叫ぶ、韓国の国民的運動であると位置づけています。

「卑日」が生まれた背景には、韓国が経済成長を遂げ、日本を超えたという認識が韓国国内で広まったことがあります。しかし、2010年代以降の韓国経済の低迷や、セウォル号沈没事故MERSコロナウイルスの流行など、様々な要因により、その実感は揺らいでいます。その結果、日本を積極的に誹謗中傷し、その評価を押し下げることで、自らの優位性を確認しようとする心理が働いていると分析しています。

鈴置氏は、具体的な「卑日」の例として、慰安婦像の設置、李明博元大統領の竹島上陸、天皇への謝罪要求、対馬仏像盗難事件、靖国神社や日本大使館への放火事件犯人の本国送還要求、朴槿恵元大統領の告げ口外交産経新聞ソウル支局長の名誉毀損起訴事件、そして明治日本の産業革命遺産のユネスコ世界遺産登録妨害運動などを挙げています。

また、ニューズウィーク日本語版の記事では、韓国社会に根強く残る「甲乙」という上下関係の考え方が、「卑日」の根底にあると指摘しています。「甲」である韓国が「乙」である日本を屈服させる姿を見て、韓国人としての優越感を感じたいという欲求が、「卑日」の動機となっていると考察しています。

さらに、京都府立大学の岡本隆司准教授は、朝鮮王朝時代の対外関係における「事大」と「交隣」という概念を用いて、「卑日」を説明しています。朝鮮は中国を「事大」し、それ以外の国を「夷」と見なして「交隣」しました。日本は朝鮮の下位に位置づけられていたのです。岡本准教授は、経済的、軍事的に日本に劣らなくなった現代の韓国が、中国を後ろ盾として、日本に対して何をしても良いと考えるようになったと指摘しています。

この岡本准教授の説明を受けて、鈴置氏は自身の説を修正し、「卑日」を「離米従中」の一環として、「従中卑日」という概念を提唱しました。これは、日本に対する華夷意識の復活と捉えることができると述べています。

「卑日」は、単なる感情的な反発や嫌悪感だけでなく、複雑な歴史的背景や社会心理が絡み合って生まれた現象であると言えるでしょう。今後の日韓関係を考える上で、「卑日」という概念を理解することは、非常に重要であると考えられます。

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