南原城の戦い

南原城の戦い（ナムウォンじょうのたたかい、朝: 남원성 전투）は、慶長の役において、日本軍が朝鮮半島の重要拠点であった南原城を攻略した攻城戦です。慶長二年（一五九七年）八月に行われました。

戦いの背景

文禄の役終結後、日本と明の間で進められていた和平交渉が不調に終わると、豊臣秀吉は朝鮮半島への再度の出兵を命じました（慶長の役の勃発）。慶長二年（一五九七年）、日本軍に課せられた主な任務は、全羅道を完全に平定し、さらに忠清道にも出撃することでした。これらの地域を平定した後は、守備を担当する武将を定め、帰国する予定の武将を中心に新たな城を築くことでした。

慶長の役が開始され、同年七月の漆川梁海戦で日本水軍が朝鮮水軍に壊滅的な損害を与えたことで、日本軍は本格的な進軍を開始しました。日本軍は右軍、左軍、そして水軍の三部隊に分かれ、水陸両面から目標であった全羅道を目指して進撃しました。

南原城への進軍と守備体制

全羅道への進軍路上、慶尚道との境界付近には、戦略上の要衝として南原城と黄石山城が日本軍の行く手を阻んでいました。そのため、日本軍は部隊を分け、右軍が黄石山城の攻略に向かう一方、左軍と水軍を合わせた約五万六千八百の兵力は、水陸両面から南原城を目指しました。

これに対し、南原城には明軍の総兵である楊元が派遣されていました。楊元は到着後、直ちに城の防御体制強化に着手しました。具体的には、城壁を約一丈増築し、外郭の羊馬牆に多数の銃眼を設け、城門には大砲を三門ほど設置し、さらに濠を深さ一・二丈掘り下げるといった工事を行いました。しかし、日本軍が水陸両面から迫っているという急報が届くと、城内は動揺し、多くの住民が逃げ出しました。この時、城内に主として残っていたのは、総兵・楊元が率いる遼東の騎兵約三千でした。

南原城の守備兵力は、明軍約三千（総兵・楊元、中軍・李新芳ら）と、朝鮮軍約一千から三千（全羅兵使・李福男、南原府使・任鉉、助防将・金敬老、光陽県監・李春元、唐将接伴使・鄭期遠ら）から成る、総勢約四千から六千の兵力でした。

攻防の経過

慶長二年八月十二日、日本軍は南原に到着し、直ちに城を完全に包囲しました。こうして、南原城を巡る攻防戦の火蓋が切って落とされました。

日本軍の包囲配置は以下の通りです。

南面：宇喜多秀家、藤堂高虎、太田一吉
西面：小西行長、宗義智、脇坂安治、竹中重利
北面：加藤嘉明、島津義弘
東面：蜂須賀家政、毛利吉成、生駒一正

戦闘はまず射撃戦から始まりました。日本軍の散兵が城に接近し、火縄銃による猛射を浴びせました。これに対し、朝鮮兵は勝字銃筒と呼ばれる原始的な火器で応戦しましたが、命中精度が低く効果は限定的でした。一方、日本軍の放つ火縄銃の弾丸は、しばしば城壁を守る朝鮮兵に命中し、守備側は徐々に劣勢となりました。

この時、明の遊撃である陳愚衷が全州におり、約三千の兵を率いて駐屯していました。南原城の守備軍は連日のように援軍の派遣を要請しましたが、陳愚衷は結局、救援に駆けつけることはありませんでした。

攻城開始から四日目、日本軍は攻城用の高櫓から城内へ激しい射撃を行い、その間に濠を埋める作業を進めました。濠が埋まると、日本軍は長い梯子を城壁にかけ、一斉に城内への突入を試みました。城内からは火の手が上がり、もはや落城は避けられない状況となりました。明・朝鮮軍の兵士たちは脱出を図りましたが、城は既に日本軍によって厳重に包囲されており、多くの兵士が日本軍の刃にかかって討ち取られました。

この激戦の中、脱出に成功した者はほとんどいませんでしたが、総兵・楊元だけはわずかな家臣を伴い、辛うじて城を落ち延びることに成功しました。守備側の損害は甚大で、明軍では李新芳・蒋表・毛承先といった副将が戦死し、朝鮮軍に至っては李福男（全羅兵使）、任鉉（南原府使）、金敬老（助防将）、鄭期遠（接伴使）、申浩（別将）、李元春（求礼県監）、馬応房（鎮安県監）、呉応鼎（防禦使）、李徳恢（判官）、黄大中（義兵指揮官）など、主要な将官が全員戦死しました。明・朝鮮軍合計で五千人に及ぶ兵が命を落としたと記録されており、これにより南原城は完全に日本軍の手に落ちました。

戦いの影響

左軍と水軍による南原城攻略と同時期に、右軍も黄石山城の攻略に成功しました。南原城と黄石山城という二つの主要な抵抗拠点が陥落したことで、日本軍は目標であった全羅道への道を切り開きました。

南原城と黄石山城の攻略を終えた両軍は、次に全羅道の中心都市である全州へ向かって進撃しました。全州を守っていた陳愚衷指揮下の明・朝鮮軍は、南原城と黄石山城の迅速な陥落を知り、恐れをなして戦わずに逃亡しました。これにより、明・朝鮮軍のこの方面における防衛体制は完全に崩壊し、日本軍は容易に全州を占領しました。

全州を占領した後、日本軍は部隊をさらに細かく分け、全羅道および忠清道の掃討を開始しました。この掃討作戦は、抵抗勢力の鎮圧だけでなく、奴隷狩りや戦功を示すための鼻切りといった行為を伴うものでした。二道の掃討を完了すると、日本軍は次の任務である朝鮮南岸域での築城を開始するため、占領地から移動しました。

明朝廷では、後に南原城の戦いにおける敗北の責任を問われ、総兵・楊元と遊撃・陳愚衷が処刑されることとなりました。

南原城の戦いは、慶長の役における日本軍の初期の快進撃を象徴する戦いの一つであり、全羅道・忠清道への進出を可能にした重要な拠点攻略となりました。

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