印旛沼干拓

印旛沼干拓とは

印旛沼干拓は、千葉県（旧下総国）の北西部に位置する印旛沼で行われた干拓事業です。かつて香取海の一部であった印旛沼は、利根川の東遷工事などの影響を受け、江戸時代前期にはW字型の閉じた沼となりました。周囲約47km、面積約20平方キロメートルに及び、利根川の増水時には遊水地としての役割も担っていました。

この印旛沼の水を内海（現在の東京湾）へ排水し、新田開発や利根川流域から江戸方面への水運の便を確保しようとする試みが、江戸時代から幾度となく行われました。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

歴史

初期の試み：染谷源右衛門の挑戦

享保9年（1724年）、下総国千葉郡平戸村（現在の八千代市平戸）の染谷源右衛門が、印旛沼から検見川村（現在の千葉市花見川区検見川町）へ至る約17kmの水路開削を幕府に願い出ました。幕府もこの計画を認め、資金を援助しましたが、工事は難航し、源右衛門は資金を使い果たし破産してしまいます。

田沼意次の再挑戦と天明の洪水

天明2年（1782年）、老中・田沼意次は、再び印旛沼の排水工事を計画しました。天明5年（1785年）には手賀沼干拓と並行して工事が開始されましたが、翌年の天明の洪水によって工事箇所が壊滅し、田沼意次が失脚したことも重なり、この試みも頓挫しました。

水野忠邦の計画と挫折

天保14年（1843年）、老中・水野忠邦は、3度目となる印旛沼の排水工事を計画しました。鳥居忠耀や二宮尊徳もこの計画に関わり、鳥取藩、庄内藩など5藩に工事の手伝いが命じられました。約6万人の人員と23万両の費用をかけた大規模な工事でしたが、水野忠邦が失脚したことにより、またもや中断を余儀なくされました。しかし、幕府内では工事を推進する動きが残っており、後の黒船来航時には、その必要性が再認識されたという記録もあります。

この天保期の工事の背景には、佐藤信淵が著した『内洋経緯記』の影響があったという見方もあります。同書では、外国船による浦賀封鎖を想定し、印旛沼と検見川を結ぶ水運路を確保することで、北関東や銚子方面からの物資輸送ルートを確立することを提唱していました。これは、外国船による江戸封鎖への対策という側面もあったと考えられます。

また、水野忠邦の失脚頃、印旛沼では謎の怪獣事件が発生したという噂も残されています。

明治以降そして昭和の完成

明治時代に入っても、印旛沼の干拓計画は何度か持ち上がりましたが、本格的な工事が再開されたのは昭和21年（1946年）のことでした。28年の歳月をかけて印旛放水路が完成し、約900haの水田が新たに開かれました。この結果、印旛沼は北印旛沼（約5.1平方キロメートル）と西印旛沼（約5.6平方キロメートル）の二つに分断されました。

脚注

参考文献

川村優「印旛沼干拓」『国史大辞典 1』（吉川弘文館 1979年） ISBN 978-4-642-00501-2
藤田覚「印旛沼干拓」『日本史大事典 1』（平凡社 1992年）ISBN 978-4-582-13101-7
須田茂「印旛沼干拓」『日本歴史大事典 1』（小学館 2000年） ISBN 978-4-095-23001-6
湯本豪一・高橋典子『日本の幻獣-未確認生物出現録-』川崎市市民ミュージアム 2004年（平成16年）7月1日

関連項目

手賀沼干拓
印旛沼の怪獣

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