印相

印相：仏の教えを伝える手のジェスチャー

仏像の両手が示すポーズ、印相（いんそう）は、仏教における重要な象徴です。サンスクリット語のmudrā（ムドラー）を漢訳したもので、本来は「封印」や「印章」を意味します。仏・菩薩・諸尊の内なる悟りの境地や働きを象徴的に表現しており、その意味を知ることで仏像の理解が深まります。

印相の起源と多様性

印相は、仏教初期においては明確な規範がありませんでした。しかし、密教の発展とともに、様々な印相が体系化され、それぞれの意味が説かれるようになりました。そのため、時代や地域、宗派によって印相には違いが見られます。同じ仏像であっても、異なる印相を結ぶ場合があります。

代表的な印相

数多くの印相が存在しますが、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。

施無畏印（せむいいん）: 五指を伸ばし、手を肩の高さに上げ、手のひらを前に向けた印相です。「恐れなくてよい」という意味を持ち、相手を安心させるジェスチャーです。不空成就[[如来]]などがこの印相を結ぶことが多いです。

与願印（よがんいん）: 五指を伸ばし、手を下げ、手のひらを前に向けた印相です。仏が衆生の願いを叶えてくれることを象徴しています。施願印、施与印とも呼ばれ、宝生如来などが結ぶことが多いです。

施無畏与願印（せむいよがんいん）: 右手が施無畏印、左手が与願印の組み合わせです。信者の願いを叶えようとする仏の慈悲を表しています。釈迦如来像によく見られますが、阿弥陀如来像にも見られるため、これだけで仏の種類を特定することはできません。薬師如来の場合は、左手の平の上に薬壺が載っているのが特徴です。

転法輪印（てんぽうりんいん）: 釈迦如来が法を説く様子を表した印相です。「説法印」とも呼ばれ、両手を胸の高さまで上げ、親指と他の指の先を輪のように合わせます。「法輪を転ずる」とは仏の教えが世に広まることを意味します。手の向きや指の組み合わせによって様々なバリエーションがあります。

定印（じょういん）: 禅定印とも呼ばれ、坐像で両手を腹前（膝上）で重ね合わせた形です。仏が瞑想に入っていることを表しています。釈迦如来や大日[[如来]]などがこの印相を結ぶことが多いです。法界定印（ほっかいじょういん）など、種類があります。

触地印（そくちいん）: 降魔の印とも呼ばれ、坐像で右手の指を右膝の前で地面に触れている印相です。釈迦が悪魔を降伏させた故事に由来し、誘惑や障害に屈せず真理を追求する強い心を象徴しています。釈迦如来、阿閦如来などが結ぶことが多いです。

智拳印（ちけんいん）: 左手は人差し指を伸ばし、他の指を握り、右手でその人差し指を握る印相です。無明を除き、仏智に入ることを象徴しています。大日[[如来]]などが結ぶことが多いです。

降三世印（こうざんぜいん）: 小指を絡めて胸の前で交差させる印相です。

忿怒印（ふんぬいん）: 中指と薬指と親指で輪を作る印相です。

遊戯坐（ゆげざ）: 片足を立てたり、反対側の足に乗せたりした座り方です。菩薩や天部像によく見られますが、仏像では弥勒仏など限られた例しかありません。

阿弥陀如来の印相

阿弥陀如来の印相は複数存在しますが、多くの場合、親指と人差し指（または中指、薬指）で輪を作るのが共通点です。

定印: 両手を胸の高さまで上げ、親指と人差し指などで輪を作るものもあります。
説法印: 転法輪印と同じです。
* 来迎印: 施無畏与願印に似て、右手を上げ左手を下げ、両手で輪を作ります。阿弥陀如来が西方極楽浄土から迎えに来る様子を表しています。浄土宗、浄土真宗の本尊像によく見られます。

九品往生と印相

『観無量寿経』の九品往生思想では、極楽往生には9つの段階があるとされます。阿弥陀如来像の印相を9種類に分類し、九品往生と関連付ける考え方もありますが、『観無量寿経』自体には阿弥陀如来の印相についての記述はありません。そのため、古い阿弥陀如来像の印相を九品往生と単純に結びつけるのは危険です。

密教における印相

日本の密教では、各宗派によって独自の伝承や儀軌があり、多様な印相が用いられます。六種拳、十二合掌、十八契印などが基本形となります。

まとめ

印相は、仏像の持つ意味を深く理解する上で重要な要素です。それぞれの印相が持つ意味や歴史的背景を理解することで、仏像鑑賞がより豊かなものになるでしょう。様々な仏像を実際に見て、それぞれの印相の違いを観察してみることをお勧めします。

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