危険思想

危険思想

危険思想とは、国家や社会の存立、秩序に対して危険な影響を及ぼすとみなされる思想に対する呼称です。

何を「危険」とみなすかは、国、時代、立場によって異なります。一般的には、当時の社会において急進主義的または過激主義的な傾向を持つと考えられた政治思想、哲学、宗教、民族主義などに対して使用される場合があります。

近代以前の多くの社会や、近代以降でも前近代的な社会、独裁国家では民主主義、自由主義、平等主義などが危険思想とみなされていました。近代以降では、政治的な極左、極右、全体主義などが危険思想と呼ばれる場合があります。「危険思想を抱く人物」「油断のならない人物、何をしでかすかわからない人物」は危険人物とされます。

日本における危険思想

日本では、明治30年代以降に「思想」という言葉が人生問題を中心とする内心の煩悶を示す言葉となりました。西欧近代思想が本格的に研究されると、広く社会問題を論じ社会改革を主張するものを特に「思想」と呼ぶようになり、更に「危険思想」などの言葉が生まれました。「民主主義」は天皇制に反するとして「民本主義」との訳語も使用されました。

大日本帝国憲法では、表現の自由などは「法律ノ範囲内ニ於テ有ス」（第29条）とされ、思想信条の自由も法律の制限がかけられました。治安警察法や治安維持法は当初は無政府主義や社会主義などに適用されましたが、次第に自由主義や政府批判なども官憲の取締り・弾圧対象となりました。

1920年代に芥川龍之介は『侏儒の言葉』で以下のように記しています。

凡そ社会主義者は、既成の事実を無視する点に於て、理想主義者である。

1933年の滝川事件（京大事件）では、右翼や民政党議員が滝川を批判しました。久野収は後に以下の回顧を記しています。

滝川事件は、学問の自由に対する侵害であるとともに、思想統制の強化を意味するものであった。

第二次世界大戦終結後、1946年6月に国会で第1次吉田内閣文部大臣の田中耕太郎は以下のように発言しました。

戦争責任を痛感し、教育刷新に邁進する。

1947年発効の日本国憲法では、思想・良心の自由が明記され、法的には「危険思想」は存在しなくなりました。しかし1950年に単独講和を進める内閣総理大臣の吉田茂は、全面講和を主張する日本社会党に対して以下のように発言し、国会等で議論となりました。

社会党は、共産主義者の影響下にある。

国民民主党の井出一太郎は国会で吉田に対し、以下のように批判を行いました。

総理の発言は、社会党に対する不当なレッテル貼りである。

関連項目

急進主義
過激主義
テロリズム
原理主義
極左
極右
大逆事件
滝川事件
* ポア (オウム真理教)

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