厚生経済学の基本定理

厚生経済学の基本定理

厚生経済学の基本定理とは、経済学における効率性と公平性に関する根幹をなす二つの定理を指します。これらの定理は、パレート効率性と競争均衡配分の関係について述べており、1950年代にケネス・アローとジェラール・ドブルーによって厳密な数学的証明が与えられました。

厚生経済学の第一基本定理

第一基本定理は、消費者の選好が局所非飽和性を満たすならば、競争均衡によって達成される資源配分はパレート効率的である、と主張します。ここで局所非飽和性とは、消費者が常に、現在の消費量よりもわずかに多い消費量を好むという仮定です。つまり、どれほどわずかな消費量の増加であっても、消費者の満足度を高めることができるという考え方です。

この定理は、完全に機能する競争市場においては、個々の経済主体が自身の利益を追求する結果として、社会全体としても効率的な資源配分が実現されることを示唆しています。市場における「見えざる手」の存在を理論的に裏付けるものと解釈されることもあります。

厚生経済学の第二基本定理

第二基本定理は、第一基本定理に加えて、選好の凸性などの追加的な条件が満たされる場合に、任意のパレート効率的な配分を、適切な所得再分配を通じて競争均衡として実現できる、と主張します。選好の凸性とは、消費者が極端な消費パターンよりも、多様な消費パターンの組み合わせを好むという仮定です。

この定理は、効率的な資源配分が、所得分配のあり方とは独立に達成可能であることを示唆しています。つまり、政府は所得再分配を通じて公平性を実現しつつ、市場メカニズムを通じて効率性を達成できる可能性があることを意味します。

第一定理の解釈と注意点

第一基本定理は、私的所有制が確立された完全競争経済において、価格メカニズムを通じて望ましい資源配分が実現されることを示唆するものとして広く認識されています。アダム・スミスの「見えざる手」を資源配分の文脈で理論的に再構成したと見なすこともできます。

しかし、この定理を政策に適用する際には、いくつかの注意点があります。まず、現実経済が完全競争の仮定を満たしているかどうかを検討する必要があります。例えば、市場における競争が十分に存在するか、私的所有権が明確に定義されているか、市場の欠如がないか、などを考慮する必要があります。

さらに、外部性や公共財が存在する経済においては、第一基本定理の前提が成り立たず、競争均衡が必ずしもパレート効率性を達成するとは限りません。このような状況は「市場の失敗」と呼ばれ、政府の介入が必要となる場合があります。例えば、環境汚染などの外部性に対しては、税金や補助金などの政策を通じて、市場メカニズムを修正する必要があります。

まとめ

厚生経済学の基本定理は、経済学における効率性と公平性の関係について重要な洞察を与えてくれます。しかし、これらの定理を現実経済に適用する際には、前提条件が満たされているかどうかを慎重に検討する必要があります。市場の失敗が存在する場合には、政府の適切な介入を通じて、より望ましい社会厚生を実現することが求められます。

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