原子力災害派遣

原子力災害派遣：自衛隊の緊急支援体制

原子力災害派遣とは、原子力災害発生時に自衛隊が実施する緊急支援活動です。内閣総理大臣の要請に基づき、防衛大臣が自衛隊に発令する災害派遣の一種で、その行動命令は「行原命」と略されます。法的根拠は自衛隊法と原子力災害対策特別措置法に規定されています。

東海村JCO臨界事故と法律改正

1999年の東海村JCO臨界事故では、自衛隊が支援活動にあたり、化学防護隊などが現場に派遣されました。しかし、当時の自衛隊には中性子線に対する十分な防護能力がなく、事故終息への直接的な貢献は限られていました。この事故を教訓に、政府は原子力災害対策特別措置法を制定。これにより、自衛隊法も改正され、災害派遣の中に「原子力災害派遣」が明確に位置づけられました。

原子力災害派遣の仕組みと役割

原子力災害が発生し、内閣総理大臣が原子力緊急事態宣言を発すると、原子力災害対策本部長である内閣総理大臣が防衛大臣に対し、原子力災害派遣を要請します。これは、通常の災害派遣（都道府県知事からの要請）とは異なる発動手順です。

派遣部隊の長には、陸上自衛隊では陸上総隊司令官、海上自衛隊では地方総監、航空自衛隊では航空総隊司令官といった、各自衛隊の上級司令官が任命されます。自衛隊の活動内容は、被災者救助、輸送支援といった通常の災害派遣と同様の活動に加え、放射線や放射性物質の測定・分析、除染活動など、原子力災害特有の対応も含まれます。

JCO臨界事故以降、化学防護車の装備強化が進み、中性子線遮蔽板の導入などが行われました。また、原子力防災訓練への自衛隊の参加も積極的に行われるようになっています。

東日本大震災での対応：最大規模の派遣

2011年の東日本大震災における福島第一原子力発電所事故は、原子力災害派遣が実際に適用された唯一の事例です。内閣総理大臣の原子力緊急事態宣言を受け、自衛隊は迅速に派遣されました。中央特殊武器防護隊や全国の化学科部隊に加え、海空自衛隊も支援にあたり、大規模な救援活動が展開されました。

救援体制の強化のため、中央即応集団司令官を指揮官とする「原子力災害派遣部隊」が編成されました。これは、東日本大震災救援の統合任務部隊とは別に、三自衛隊合同で構成された部隊です。除染活動を含む原子力災害派遣は、2011年12月26日まで継続されました。

災害派遣手当の改定

東日本大震災を受け、原子力災害派遣従事者に対する災害派遣手当が大幅に増額されました。死亡時の賞与金は最大9,000万円に引き上げられ、日額の派遣手当も大幅に増額されました。これは、危険な任務に従事する隊員のモチベーション向上と生活保障を目的としています。

まとめ

原子力災害派遣は、高度な専門知識と技術を必要とする、極めて重要な任務です。自衛隊は、その専門性と組織力を活かし、国民の生命と安全を守るために、今後も重要な役割を果たしていくことでしょう。継続的な訓練と装備の充実が、今後の原子力災害への備えとして不可欠です。

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