原子心母 (曲)

ピンク・フロイド「原子心母」：壮大な組曲の誕生秘話と楽曲解説

「原子心母」（原題: Atom Heart Mother）は、1970年にピンク・フロイドが発表した、20分を超える大作組曲です。この楽曲は、バンドの評価を大きく向上させたことで知られています。

作曲とレコーディングの経緯

この楽曲は、同名アルバム『原子心母』のA面全体を占める大作として収録されました。元々は、デヴィッド・ギルモアがツアー中に思いついたインストゥルメンタル曲で、彼は当初「Theme from an Imaginary Western」と呼んでいました。ロジャー・ウォーターズはこの曲に感銘を受け、メンバーは「The Amazing Pudding」という仮題で徐々に形にしていきました。1970年1月にはパリ公演で初披露され、その後ライブの定番曲となりました。

3月には、メンバー4人でアビー・ロード・スタジオにてレコーディングを行いましたが、満足のいく出来にはなりませんでした。そこでウォーターズは、知人から紹介された作曲家ロン・ギーシンにテープを託し、バンドがアメリカツアーに出ている間にアレンジを依頼しました。ギーシンのアレンジは、楽曲にふさわしい壮大さとメロディアスな要素を加えましたが、ギターソロを除くと、チェロソロなどクラシック作品のような趣を持つものとなりました。

アメリカツアーから帰国後、ブラス、チェロ、コーラスが追加録音され、同年6月にはイングランド西部のバースで開催されたフェスティバルで、コーラス隊とブラス隊を加えたバージョンが初披露されました。その後、いくつかの公演でオーケストラとの共演も実現しています。

タイトル決定の瞬間

「Atom Heart Mother」というタイトルが決定したのは、1970年7月16日のBBCインコンサート出演時でした。それまで正式なタイトルは決まっていませんでしたが、DJのジョン・ピールから「紹介のためにタイトルが必要」と求められた際、ギーシンが持っていたイブニング・スタンダード紙に掲載されていた、原子力電池駆動の心臓ペースメーカー移植手術に成功した56歳の女性に関する記事の見出し「Atom Heart Mother Named」から名付けられました。

楽曲構成：5つのパート

「原子心母」は、以下の5つのパートで構成されています。

1. 父の叫び：ハモンドオルガンの音色から始まり、金管楽器によるメインテーマが演奏されます。その後、オートバイの音などの効果音が挿入されます。
2. ミルクたっぷりの乳房：ベースとオルガンを伴ったチェロソロから始まり、ドラムが加わり、ギルモアのギターソロが展開されます。
3. マザー・フォア：ベースとオルガンの優しい音色と共に、コーラス隊が登場し、メイスンのドラムが加わります。
4. むかつくばかりのこやし：コーラス隊は登場せず、ギルモアのギターソロが展開され、その後コーラス隊の合唱が加わります。メインテーマが再び演奏されます。
5. 喉に気をつけて：メロトロンによる不協和音が展開され、歪んだ声が聞こえた後、機関車の効果音でかき消されます。エコーのかかった音声が続き、歪んだ声による「Silence In The Studio!」という叫びの後、メインテーマが再び演奏されます。
6. 再現：メインテーマ後のヴィオラソロから始まり、すべての楽器が登場し、楽曲はクライマックスを迎えます。

参加メンバー

デヴィッド・ギルモア - ギター、スライドギター
ロジャー・ウォーターズ - ベースギター、テープ編集
リチャード・ライト - ハモンドオルガン、キーボード、メロトロン、グランドピアノ
ニック・メイスン - ドラム、パーカッション、テープ編集

カバー

2014年には、日本の弦楽四重奏団モルゴーア・クァルテットが、この楽曲を弦楽四重奏に編曲しカバーしています。

「原子心母」は、ピンク・フロイドの音楽性を象徴する、実験精神と創造性に満ちた作品と言えるでしょう。

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