原形質分離

原形質分離とは

原形質分離（げんけいしつぶんり、英語：plasmolysis）とは、植物細胞において細胞壁と細胞膜が高張液にさらされた結果、分離が起こる現象です。この現象は植物細胞の構造や機能を理解する上で重要な概念となっています。

その仕組み

植物の細胞膜は選択的透過性を持ち、水分を透過させる特性があります。細胞外の浸透圧が細胞内よりも高い場合、細胞内の水分は外へと移動し、細胞膜に覆われている部分（原形質）が収縮します。ただし、植物細胞の外側には硬い細胞壁があり、これは変形しにくいため、細胞膜が細胞壁から分離してしまうのです。このため、動物細胞では細胞壁が存在しないため原形質分離が起きず、単に細胞全体が縮むだけです。

原形質分離は植物細胞の細胞膜が存在することを示唆しています。動物細胞は細胞膜のみで構成されていますが、植物細胞は細胞膜のさらに外側に細胞壁を持っています。この細胞膜は光学顕微鏡では観察できず、電子顕微鏡によって初めてその構造が確認されました。そのため、過去には植物の細胞壁が細胞膜と誤解されていました。現在は、原形質の表面を覆う薄い膜を「原形質膜」として理解し、この薄膜が植物の細胞膜であることが確認されています。

水吸収との関係

通常、植物の細胞質は細胞壁の内側に充満しています。この状態では、細胞質は外界よりも浸透圧が高く、水分は内側に向かって吸収されようとします。細胞壁は変形しにくいため、この浸透圧が膨圧として細胞壁を内側から支える役割を果たしています。つまり、外部の浸透圧と細胞質内の浸透圧の差が水を引き込む力となり、これに対抗する膨圧が細胞壁を押し返す力となります。高張液に浸すことで細胞の吸水力が増し、低張液に浸すことで緊張状態が保たれると、吸水力が低下します。

細胞が等張液に浸された際に、細胞膜が細胞壁から分かれるさまを「限界原形質分離」と呼びます。一方、低張液や蒸留水で細胞が吸水し、緊張を取り戻す現象を「原形質復帰」として知られています。

植物が膨圧によって体を支えるため、水分不足が生じると膨圧が減少し、植物がしおれる様子が見られますが、この状態で原形質分離が起こるわけではありません。細胞膜は細胞壁に結合したまま、細胞壁全体がつぶれてしまうのです。そのため、原形質分離は自然界ではあまり起こらない現象であり、しおれた状態と原形質分離に直接の関係はないことが分かります。

実験方法

原形質分離は、細胞の浸透圧に関連する現象として教育の場でもよく取り上げられています。日本では高校の生物の授業で、この現象がしばしば紹介され、生徒が実験を通じて理解を深めています。例えば、植物の表皮細胞をショ糖溶液に浸すという実験が行われます。ユキノシタの細胞はアントシアンによって赤く染まるため、分離の状態が観察しやすく、多く用いられます。また、ムラサキツユクサやアオミドロも実験に適している細胞です。

最後に、オオカナダモも原形質分離の研究においてよく使われる材料です。このように、原形質分離は植物細胞の浸透圧や細胞膜の役割を学ぶ上での重要なテーマとなっており、教育現場でも広く活用されています。

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