原煕

原 煕（はら ひろし、慶応4年4月9日 / グレゴリオ暦1868年5月1日 - 昭和9年1月9日 / 1934年）は、日本の農学者、造園家として、近代日本の造園・園芸分野の黎明期において、その学問体系の確立と普及、そして国土や都市の緑化推進に多大な功績を残した人物です。

加賀藩士、原種方の四男として金沢に生まれた原は、明治25年（1892年）に帝国大学農科大学を卒業しました。その後、農商務省や陸軍省を経て、台湾総督府民政局の技師、拓殖技師、林務官として多様な経験を積み、さらに拓殖務省でも勤務しました。

明治32年（1899年）、東京帝国大学農科大学の助教授に就任。明治39年（1906年）には農場長を兼務し、翌年には園芸学講座の担当となりました。東京帝国大学では、昭和4年（1929年）に定年退職するまで、教授として長きにわたり多くの後進の育成に尽力し、日本の園芸学・造園学を担う人材を多数輩出しました。

大学での教育・研究活動に加え、原は実践的な業績も多く残しました。農場長時代には、サトザクラをはじめとする様々な花木の品種培養に取り組み、園芸技術の発展に貢献しました。また、庄内柿の一種である「平核無」に命名し、その脱渋方法（酒樽を用いた方法）を酒井調良に伝授した逸話は知られています。

明治43年（1910年）には欧米各国を1年間視察し、世界の造園・園芸技術や都市緑化の状況を学び、帰国後に東京帝国大学教授に昇任しました。大正3年（1914年）には農学博士の学位を取得しています。

原は、国家的な造園事業や公共空間の整備にも深く関わりました。明治神宮の御造営事業においては、造営局の参与として参加し、自ら教え子たちを率いて内苑の築造にあたったほか、宝物殿周辺には和洋折衷の庭園を整備しました。さらに、神宮外苑の構築にもその手腕を発揮しています。また、大正12年（1923年）の関東大震災後には、造園分野の復興事業にも積極的に関与し、都市の緑の再生に尽力しました。

大正6年（1917年）からは数年間、宮内省内匠寮の御用掛嘱託として、新宿御苑や京都御所の庭園とその周辺の作庭や風致の保全に尽力しました。特に皇居外苑とその周辺の風致については、当時の宮内大臣に建白書を提出するなど、公共緑地の保護と景観指導に熱意を示し、その重要性を広く訴えました。

このほか、民間の造園プロジェクトとして渋谷鍋島松涛園の住宅地計画や駒場前田侯爵邸の庭園なども手がけました。さらに、内務省の都市計画中央委員会や地方委員会、東京市恩賜公園常設委員会、史蹟名勝天然記念物調査委員会など、数多くの公職を歴任し、多方面から日本の景観保全と都市計画に貢献しました。

その長年の功績に対して、明治36年（1903年）に従六位、明治41年（1908年）に正六位の位階を授けられました。また、明治36年に勲五等瑞宝章、明治43年に勲四等瑞宝章、大正5年に勲三等瑞宝章といった勲章も叙勲されています。

原 煕は、教育者、研究者、そして実務家として、日本の園芸学・造園学の礎を築き、明治・大正・昭和初期の我が国の緑化と景観形成において中心的な役割を担った、多大な影響力を持つ人物と言えるでしょう。

ちなみに、妻の三喜は、『武士の家計簿』で知られる加賀藩の会計担当者、猪山直之の嫡男・成之の長女にあたり、婿養子の辰二は教育者・社会運動家の山崎延吉の弟です。

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