サトザクラ

サトザクラ（里桜）とは

サトザクラは、広義にはバラ科サクラ属の栽培品種の総称であり、狭義にはオオシマザクラを基に誕生した栽培品種群（Cerasus Sato-zakura Group）を指します。日本におけるサクラの栽培品種は、単一の野生種から生まれたものは稀で、多くがオオシマザクラを中心に、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、エドヒガンなど多様な野生種が交雑して生まれた種間雑種であることが、近年のDNA解析で明らかになっています。特に八重咲きのヤエザクラの栽培品種の多くは、オオシマザクラを基に開発された狭義のサトザクラ群に属します。

分類について

アメリカの主流の分類法では、サトザクラと日本に自生するカスミザクラ、オオヤマザクラ、ヤマザクラ、オオシマザクラを、Prunus serrulataという単一の種にまとめることがあります。この場合、サトザクラはPrunus serrulataの下位分類である変種（variety）として扱われ、学名としてはPrunus serrulata var. lannesianaやPrunus serrulata var. pendulaなどが用いられます。また、カスミザクラやオオヤマザクラもそれぞれ変種として、ヤマザクラは変種またはさらに下位の品種（form）として、オオシマザクラは品種として分類されます。

花見とサトザクラの歴史

日本では、固有種を含む10種または11種の基本野生種を基に、変種以下の分類を含めると100種以上の自生種が存在します。さらに、これらの自生種から育成された栽培品種は200種以上、分類によっては600種以上、または800種とも言われるほど多様です。このうち、100品種以上は、北海道松前町由来のマツマエハヤザキなどを掛け合わせて作出されたものです。

日本では、サクランボの食用利用のほか、花や葉の塩漬けも食品に利用されますが、特に平安時代の国風文化以降、桜は観賞用として特別な位置を占めるようになりました。当初はヤマザクラが主な鑑賞対象でしたが、花弁の数や色、花の付き方などから見栄えの良い個体が選抜・育種され、接ぎ木などの方法で増殖されることで、様々な栽培品種が開発されました。

平安時代には既に八重桜が接ぎ木で増殖されており、「しだり櫻」や「糸櫻」が存在したことが文献に記録されています。鎌倉時代以降には、鎌倉周辺に自生するオオシマザクラが栽培され、京都に持ち込まれたと考えられています。室町時代には、オオシマザクラを由来とするフゲンゾウやミクルマガエシなどが誕生しました。江戸時代には、オオシマザクラの優れた特質からカンザンなど多数のサトザクラ群やソメイヨシノが生まれ、河川整備に伴い、護岸と美観維持のため柳や桜が積極的に植えられました。江戸時代末期には、現代と大差ない300を超える品種が存在していました。

明治時代に入り、大名屋敷の荒廃や西洋化により庭園が取り壊されると、多くの栽培品種が伐採され、ソメイヨシノばかりが植えられるようになりました。これを憂いた駒込の植木職人、高木孫右衛門が多くの品種の枝を採取し自宅で育てたことが、後の品種保存につながりました。また、清水謙吾が村おこしとして荒川堤に様々な品種の桜並木を作り「五色桜」として評判となり、小石川植物園などに多くの品種が保存されるようになりました。さらに京都では、佐野藤右衛門が全国の貴重な品種を収集・増殖し、保存に努めました。

第二次世界大戦で荒川堤も被害を受けましたが、戦時中は小清水亀之助らが品種の保護に尽力しました。戦後には、国立遺伝学研究所や多摩森林科学園が小清水らから苗を譲り受け、現在では多くのサクラが保存されています。また、イギリスの園芸家コリングウッド・イングラムが保存していたタイハクのように、一度日本で消滅した品種が里帰りすることで、江戸時代以前のサクラの命脈を補完しています。高度経済成長期にはソメイヨシノが全国に植えられ、今日では最も多く植えられた品種となっています。

現在でもサクラの栽培品種の作出は続いており、2007年には理化学研究所が重イオンビームを照射して新品種ニシナザオウを作出することに成功しています。多くの品種が見られる名所としては、松前公園、日本国花苑、日本花の会結城農場、造幣局の桜の通り抜けなどがあります。

オオシマザクラを基盤とする狭義のサトザクラ群

サトザクラ群に属する代表的な品種を以下に列挙します。

アサヒヤマ（旭山・朝日山）
アズマニシキ（東錦）
アマノガワ（天の川）
アマヤドリ（雨宿）
アヤニシキ（綾錦・松前綾錦）
アラカワニオイ（荒川匂）
アラシヤマ（嵐山）
アラタマ（新珠・松前新珠）
アリアケ（有明）
イチヨウ（一葉）
イツカヤマ（早晩山）
イトククリ（糸括）
イマジュクザクラ（今宿桜）
イモセ（妹背）
イヨクマガイ（伊予熊谷）
イワイザクラ（祝桜）
ウコン（鬱金）
ウズザクラ（渦桜）
ウスズミ（薄墨）
エイゲンジ（永源寺・永源寺桜）
エド（江戸・江戸桜）
オオサワザクラ（大沢桜）
オオシバヤマ（大芝山）
オオタザクラ（太田桜）
オオヂョウチン（大提灯）
オオムラザクラ（大村桜）
オキナザクラ（翁桜）
オムロアリアケ（御室有明）
カリギヌ（狩衣）
カンザン（関山・セキヤマ）
キクザクラ（菊桜）
キクシダレ（菊枝垂）
キナシチゴザクラ（鬼無稚児桜）
キブネウズ（貴船雲珠）
ギョイコウ（御衣黄）
キリン（麒麟）
クシマザクラ（玖島桜）
クルマドメ（車駐）
ケンロクエンキクザクラ（兼六園菊桜）
コウエンジシロヤエザクラ（光善寺白八重桜）
コウカ（紅華）
コウダイジ（高台寺）
コガネイウスベニザクラ（小金井薄紅桜）
コケシミズ（苔清水）
ココノエ（九重）
コシオヤマ（小汐山）
ゴショザクラ（五所桜）
ゴショミクルマガエシ（御所御車返し）
コチョウ (胡蝶)
ゴテンニオイ（御殿匂）
コマツナギ（駒繋）
コンゴウザン（金剛山）
シオガマ（塩釜）
シズカ（静香・松前静香）
シバヤマ（芝山）
シブヤコンノウザクラ（渋谷金王桜）
ショウゲツ（松月）
ショウナンデン（小南殿）
シラユキ（白雪）
シロタエ（白妙）
スイショウ（水晶）
スザク（朱雀）
スマウラフゲンゾウ（須磨浦普賢象）
スミゾメ（墨染）
スルガダイニオイ（駿河台匂）
センダイシダレ（仙台枝垂）
センダイヤ（仙台屋）
センリコウ（千里香）
タイハク（太白）
ダイミン（大明）
タオヤメ（手弱女）
タカサゴ（高砂・南殿・奈天・武者桜）
タグイアラシ（類嵐）
チョウシュウヒザクラ（長州緋桜）
ツクバネ（突羽根・平野突羽根）
テマリ（手毬）
トウキョウザクラ（東京桜）
トラノオ（虎の尾）
ナジマザクラ（名島桜）
ナデシコザクラ（撫子桜）
ニソンインフゲンゾウ（二尊院普賢象）
バイゴジジュズカケザクラ（梅護寺数珠掛桜）
ハクカサン（白華山）
ハクサンオオデマリ（白山大手毬）
ハクサンハタザクラ（白山旗桜）
ハナガサ（花笠・松前花笠）
バンリコウ（万里香）
ヒグラシ（日暮）
ヒヨドリザクラ（鵯桜）
ヒラノネザメ（平野寝覚）
フクザクラ（福桜）
フクロクジュ（福禄寿）
フゲンゾウ（普賢象・普賢堂）
フサザクラ（房桜）
フダンザクラ（不断桜）
ベニガサ（紅笠・松前紅笠）
ベニシグレ（紅時雨・松前紅時雨）
ベニユタカ（紅豊・松前紅豊）
ベンドノ（弁殿）
ホウリンジ（法輪寺）
ホクホウ（北鵬）
ホタテ（帆立）
ボタン（牡丹）
マザクラ（真桜・白花真桜）
マスヤマ（増山）
マツマエ（松前）
マツマエアイゼン（松前愛染）
マツマエオオシオ（松前大潮）
マツマエカザンイン（松前花山院）
マツマエハナゾメイ（松前花染衣）
マツマエハヤザキ（松前早咲・血脈桜）
マツマエフウキ（松前富貴）
マツマエベニヒゴロモ（松前紅緋衣）
マツマエヤエコトブキ（松前八重寿）
ミクルマガエシ（御車返し・御車還し・桐ケ谷・キリガヤツ）
ミッカビザクラ（三ヶ日桜）
ムラサキザクラ（紫桜）
メイゲツ（明月）
ヤエアケボノ（八重曙）
ヤエニオイ（八重匂）
ヤエベニトラノオ（八重紅虎の尾）
ヤエムラサキザクラ（八重紫桜）
ヤダケムラサキ（矢岳紫）
ヨウキヒ（楊貴妃）
ランラン（蘭蘭）
リュウウンインベニヤエ（龍雲院紅八重）
* ワシノオ（鷲の尾）

これらの品種は、花の色、形、咲き方など、それぞれに異なる特徴を持っています。花見の際には、これらの多様なサトザクラを鑑賞してみてはいかがでしょうか。

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