原爆下の対局

原爆下の対局：歴史に刻まれた一局

1945年8月6日、広島。第3期本因坊戦第二局、橋本宇太郎本因坊と挑戦者岩本薫七段の対局中、広島に原子爆弾が投下されました。爆心地から8キロほどの場所での対局は、一瞬にして混乱に包まれましたが、その日のうちに決着しました。

対局に至るまで

本因坊戦は、当時の囲碁界で最も権威のあるタイトル戦でした。橋本宇太郎は、関山利一の病気棄権により本因坊位に就いていました。第3期は、太平洋戦争末期の困難な状況下、岩本薫七段が挑戦することになりました。

当初、対局は広島市内の藤井順一邸で行われる予定でした。しかし、第一局の後、警察からの要請で、第二局は郊外の五日市町（現在の広島市佐伯区）にある中国石炭の寮に変更されました。この変更が、後に「原爆対局」と呼ばれる出来事へと繋がります。

原爆投下、そして対局再開

対局三日目の朝、午前8時15分。対局が始まった直後、原爆が炸裂しました。閃光と爆音、そして爆風により、対局場は破壊されました。しかし、驚くべきことに、対局は一時中断されたものの、午前10時半には再開されたのです。両対局者は動揺しながらも最後まで打ち切り、橋本本因坊が勝利しました。

その後

原爆により、対局関係者の中には命を落とした人もいました。橋本本因坊と岩本七段は、関係者の消息を尋ねるために広島市内に入りました。その後、対局は中断され、両者はそれぞれの故郷へと戻りました。

第三局以降は場所を移し、最終的に岩本薫七段が本因坊の座を勝ち取りました。被爆死した関係者の慰霊のため、決定三番勝負の第一局の初手は、広島で打たれています。

語り継がれる歴史

「原爆下の対局」は、囲碁史に残るだけでなく、戦争の悲劇を伝える出来事として語り継がれています。岩本薫の基金で建てられたシアトルの日本棋院囲碁センターには、原爆対局の棋譜が飾られています。

この対局は、瀬越憲作、橋本宇太郎、岩本薫という3人の棋士の人生にも大きな影響を与えました。彼らはその後、長寿を保ち、囲碁界の発展に貢献しました。

参考文献

瀬越憲作『囲碁一路』産業経済新聞社 1956年
岩本薫『囲碁を世界に（本因坊薫和回顧録）』講談社 1979年
橋本宇太郎『囲碁専業五十年』至誠堂 1972年
井口昭夫『本因坊名勝負物語』三一書房 1995年
* 中山典之『昭和囲碁風雲録』岩波書店 2003年

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