反文学論 (栗本慎一郎の著作)

『反文学論』（栗本慎一郎 著）

『反文学論』は、経済人類学者でありながら文学にも深い造詣を持っていた栗本慎一郎によって著され、1984年に光文社より文庫として刊行された文芸評論集です。なお、同じ書名を持つ著作として、柄谷行人の同名の文芸時評（講談社学術文庫に収録）が存在するため、混同には注意が必要です。

概要

著者の栗本慎一郎は、経済人類学を専門分野とする一方、自ら小説作品（例：『反少女』、『敵意』）を発表するなど、文学においても活発な活動を展開していました。本書は、そうした多角的な視点から文学を論じた評論をまとめたものです。彼の評論対象は、いわゆる純文学の枠に留まらず、SFやミステリーといった幅広いジャンルの作品に及びます。

本書の大きな特徴の一つは、第一章で展開される著者の根幹をなす文学論です。ここでは、自己の深層へと深く分け入り、存在の根源に迫るような文学作品を高く評価する姿勢が明確に示されています。そうした文学の探求者、あるいは実践者として、坂口安吾や橋本治といった日本の作家に加え、半村良、フィリップ・K・ディック、カート・ヴォネガットといったSF作家の名前が具体的に挙げられています。

また、本書には著者の自作SF短編「蕩変木（とうへんぼく）三号」が、『俺がキルゴア・トラウトよ』という副題を付されて特別に収録されており、評論家・作家という二つの顔を持つ著者のユニークな試みが垣間見えます。

収録作品とエピソード

本書で具体的に論じられている作家や作品には、以下のようなものがあります。

ジョルジュ・バタイユ
大江健三郎：『雨の木を聴く女たち』
筒井康隆：『虚航船団』、『乗り越し駅の刑罰』
半村良
フィリップ・K・ディック
カート・ヴォネガット
レイモンド・チャンドラー

特に有名なエピソードとして、作家・筒井康隆の小説『虚航船団』を巡って、筒井自身と栗本慎一郎の間で繰り広げられた文学論争の発端となった評論が、本書に収められている点が挙げられます。この論争は後年、小谷野敦の著作でも取り上げられるなど、日本の文壇において一定の注目を集めました。

また、フィリップ・K・ディック論とカート・ヴォネガット論については、それぞれ北宋社から刊行された研究読本である『あぶくの城』および『吾が魂のイロニー』からの転載であることが明記されています。

書籍情報

『反文学論』
著者：栗本慎一郎
出版社：光文社
刊行年：1984年9月
* ISBN：4-334-70024-1

経済人類学者という独自の立ち位置から文学を論じる切り口、純文学からSF、ミステリーまでを横断する幅広い視点、そして自己と根源への探求を重視する硬質な文学観は、本書『反文学論』の大きな魅力と言えるでしょう。

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