受胎告知 (ゴヤ)

ゴヤの受胎告知

『受胎告知』（じゅたいこくち）は、スペインのロマン主義の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤが1785年に制作した祭壇画です。この作品は、受胎告知をテーマとしており、かつてマドリードのカプチン会サン・アントニオ・デ・パドヴァ修道院の礼拝堂に設置されていました。現在、その作品はセビーリャのオスーナ公爵家コレクションに収蔵されており、またアメリカ合衆国のボストン美術館にも関連する準備習作が保存されています。

制作の背景

この祭壇画が製作されたサン・アントニオ・デ・パドヴァ修道院は、17世紀にドイツの迫害を逃れたカプチン会士たちによって設立されたもので、建築家ベントゥーラ・ロドリゲスの報告により、崩壊の危険が指摘された際に新たな祭壇画の制作が決定されました。これには、その時代の新古典主義の要素を取り入れた作品が求められており、ゴヤが若い才能を活かして主祭壇画を手掛けることになりました。

作品の特徴

ゴヤはこの作品において、天からの神秘的な光の中で大天使ガブリエルが聖母マリアに神の子の受胎を告げる瞬間を捉えています。大天使は白い翼を広げ、左手で天を指差しています。聖母は書見台の前でひざまずき、頭を下げ、両手を合わせて運命を受け入れる様子が描かれています。純潔を象徴する白い百合の花と共に横たわる籠、聖母の頭上を舞う白い鳩は、聖霊の現れを示しています。

作品の構成には明暗法が巧みに使われており、視点は聖母と大天使との距離を感じさせないように低い位置に設定されています。観る者は、聖母と大天使の姿を見上げる形になり、二人の存在感が強調されています。特に聖母マリアの柔らかな顔立ちと、衣服のモダンで単純なひだは、古典的な美を感じさせます。

聖母の描写

伝統的な宗教画では聖母が書物と一緒に描かれることが多いのですが、ゴヤはメギッラー（巻物）を用いて象徴的に描いています。これにより、聖書の背景を持ちながらも、受胎告知に関する深いメッセージが暗示されます。主題は決して雄大なだけでなく、静謐な美しさと内面的な神秘をも秘めています。

準備習作の重要性

ボストン美術館に所蔵されている準備習作は、ゴヤの創作過程を探る貴重な資料です。この下絵では、元々予定されていた天使たちや父なる神の描写が削除され、より親密な表現にシフトしました。この変更により、光の降り注ぎ方が大きく変わり、作品全体の精神性が強化されています。

結び

1890年には修道院の礼拝堂が破壊された後、本作品は未亡人となったメディナセリ公爵夫人の手に渡り、その後息子のオスーナ公爵に受け継がれました。このように、作品は長い歴史を経て現在に至ります。ゴヤの受胎告知は、ただの絵画ではなく、深い宗教的、歴史的な意味を持つ傑作として、今日でも多くの人々に感動を与えています。

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