古典の日

古典の日（こてんのひ）

毎年11月1日は、日本の貴重な古典文化を顕彰し、その価値を広く知らしめることを目的とした記念日「古典の日」に定められています。この記念日は2012年（平成24年）に法律によって正式に制定され、国民が古典に親しみ、その継承と発展に寄与することを願って設けられました。

古典の定義と範囲

「古典の日に関する法律」において定義される「古典」の範囲は非常に幅広いのが特徴です。単に古い時代の日本の文学作品や美術品にとどまらず、諸外国で生まれ日本で深く受け継がれ、国民のよりどころとして今日まで伝承されてきたものも含まれます。具体的には、漢字文化圏から伝わった漢詩、古来より伝わる囲碁、西洋から導入されたクラシック音楽、海外の文学作品の翻訳などが例として挙げられます。

また、武道に代表される身体文化、茶道や華道、書道といった生活に根ざした文化、能や歌舞伎のような伝統芸能など、多岐にわたる分野が対象となります。時代区分についても柔軟で、比較的新しい明治期の作品までが「古典」の範疇に含まれるとされています。

由来と制定への経緯

古典の日の日付である11月1日の由来は、平安時代後期の歴史的記録である『紫式部日記』に見られる著名な一節に求められます。寛弘5年11月1日（西暦1008年12月1日）、当時の著名な歌人であった藤原公任が、源氏物語の作者として知られる紫式部に対して「あなかしこ、このわたりに若紫やさぶらふ」（恐れながら申し上げます。このあたりに源氏物語の登場人物である若紫の姫君はいらっしゃるでしょうか）と問いかけたという記述です。

この公任の言葉は、当時すでに源氏物語が都の人々の間で広く読まれ、話題となっていたことを示唆しており、日本を代表する古典文学である『源氏物語』が、歴史上の公的な記録として初めて確認できる箇所とされています。

この歴史的な記述に注目した作家の瀬戸内寂聴氏や、茶道裏千家前家元である千玄室氏（いずれも呼びかけ人代表）らが中心となり、古典の日制定に向けた動きが始まりました。源氏物語が記録されたとされる年（1008年）から千年目に当たる2008年に向け、その前年の2007年1月に京都府などが設立した源氏物語千年紀委員会が、11月1日を「古典の日」として記念することを提唱しました。そして、源氏物語千年紀にあたる2008年11月1日には、古典の日が宣言され、国立京都国際会館において記念式典が盛大に開催されました。この式典には、当時の天皇皇后両陛下（現在の上皇上皇后両陛下）も臨席され、記念日の始まりを寿ぎました。

法制化のプロセス

記念日としての定着と国民的な認知度向上を目指し、法的な裏付けを得るための動きが活発化します。2012年（平成24年）3月には、福田康夫元内閣総理大臣を会長とする超党派の「古典の日」推進議員連盟が結成され、本格的な法制化に向けた活動が開始されました。

祝日ではなく、国の制定する記念日として位置づけるための法案が、同年8月に議員立法として国会に提出されました。この法案は各党の賛同を得て、スムーズに審議が進みました。

2012年8月24日：衆議院文部科学委員会において全会一致で法案が発議され、続く衆議院本会議でも全会一致で可決、参議院へ送付されました。
2012年8月28日：参議院においても、文教科学委員会にて全会一致で可決されました。
2012年8月29日：参議院本会議にて全会一致で可決され、法案が成立しました。
2012年9月5日：法律が公布され、即日施行されました。

こうして「古典の日に関する法律」が成立し、11月1日は正式に国の定める記念日となりました。この法律では、古典の日を制定する目的（第1条）、国民が取り組むべき内容（第3条）、そして記念日における「古典」の具体的な定義（第2条）などが明確に規定されています。

関連行事と活動

古典の日が宣言された2008年以降、古典への関心を高めるための様々な活動が行われています。2009年3月には、源氏物語千年紀委員会を母体として「古典の日推進委員会」が改組・発足し、古典の日の普及・推進活動を担うこととなりました。

古典の日推進委員会は、2009年以降、古典作品の朗読コンテストを継続的に実施するなど、古典に親しむ機会を提供しています。また、11月1日の「古典の日」を中心とした期間（通常、11月1日から始まる教育・文化週間を含む前後）には、全国各地で古典に関連した様々なイベントや講演会、美術館・博物館・図書館などにおける特別展示や催し物が開催され、古典文化への理解促進と継承のための取り組みが行われています。

これらの活動を通じて、古典の日が国民一人ひとりにとって、自国の、あるいは人類の貴重な文化遺産である古典に触れ、その普遍的な価値を再認識し、未来へ伝えていくきっかけとなることが期待されています。

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