古史成文

古史成文（こしせいぶん）

古史成文は、江戸時代後期の国学者である平田篤胤によって著された、全15巻からなる著作です。1811年（文化8年）に成立し、1818年（文政元年）に一部が刊行されました。この著作は、日本の古代史、特に神代の歴史を深く掘り下げており、篤胤の思想や学問的関心を理解する上で重要な資料となっています。

成立の背景

古史成文は、『古事記』、『日本書紀』、『古語拾遺』、『風土記』といった古典を素材としています。篤胤はこれらの文献を詳細に検討し、伝承における異同を考察しました。そして、神代から推古天皇に至るまでの古代の伝承を、『古事記』の文体に倣って補足・訂正し、自らが正しいと考える伝承を書き記すという壮大な構想を抱いていました。

篤胤は、古伝に異説が多いことを疑問視し、「真の伝承は必ず一つである」という確固たる信念を持っていました。この信念が、古史成文を著す原動力となりました。彼はこの著作に対して、「ああ、私を理解する者は、この古史成文であろうか。私を誹謗する者も、またこの古史成文であろうか」と述べており、この著作に対する特別な思い入れを示しています。

公表された状態

古史成文は全15巻の構想でしたが、実際に刊行されたのは、神代から神武天皇誕生までを扱った第1巻から第3巻（上中下）のみでした。平田家には、第7巻にあたる神功皇后の伝までの草稿が現存しています。

この著作では、天地開闢から鵜草葦不合命（うがやふきあえずのみこと）までの出来事が165段に分けられて記述されています。上巻では高天原の物語が34段まで、中巻では出雲を舞台とした神々の物語が105段まで、下巻では筑紫の物語を含めた神孫の時代までが記されています。古史成文の脱稿のきっかけとなったのは、駿河の門人である柴崎直古の依頼で、1812年（文化8年）に直古のもとに逗留したことでした。この短い期間に、古史成文だけでなく、『古史徴』や『霊能真柱』などの重要な著作が次々と書き著されました。

古史成文は、単なる歴史書としてだけでなく、篤胤の思想や学問的探求の軌跡を示す重要な著作です。神代の歴史を新たな視点から捉え直し、古代日本の真実を明らかにしようとする篤胤の情熱が、この著作から強く感じられます。しかし、未完に終わったことは、日本の古代史研究にとって大きな損失とも言えるでしょう。

関連事項

* 古史伝: 平田篤胤のその他の著作群。

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