古椿の霊

古椿の霊とは

古椿の霊は、日本各地に伝わるツバキにまつわる怪異です。ツバキはその美しい花を咲かせる一方で、花が落ちる様子が人の死を連想させるため、特に入院患者へのお見舞いの花としては避けられることがあります。このような花に対する怪しげなイメージは、妖怪伝承の根源とも言われています。

古椿の霊の伝承は、鳥山石燕による『今昔画図続百鬼』に描かれています。この書では、老いたツバキの木に精霊が宿るとされ、時にはこの木が怪木に変わり、人々をたぶらかすという内容が記されています。文化時代から文政時代にかけて、こうしたツバキに関する怪異は広まり、多くの民間伝承が残されているのです。

山形県の怪談「椿女」

山形県には「椿女」という怪談があります。この物語は天明時代に起こった出来事として知られています。ある日、2人の商人が峠道を歩いていると、一方の商人の横に突然女が現れました。彼女がその商人に息を吹きかけると、商人はなんとハチに変わってしまいます。驚いたもう一人の商人は、女が毒々しく咲いたツバキの木の中へ消えていくのを目撃しました。変わり果てた商人もそのツバキの花に吸い込まれてしまい、数日後に花が地面に落ちます。これを拾った別の商人は、ハチがすでに死んでいることに気づき、寺に相談します。

住職はこの話を聞き、過去にも旅人が消失する事件があったことを思い出しました。しかし残念ながら、経文を唱えても商人は生き返ることはなく、彼はハチと共にツバキの花を土に埋めることに決めました。この物語は、著者山田野理夫によって創作された本来の存在しない妖怪伝承を多く含む『東北怪談の旅』から取られたものです。

秋田県の伝承

秋田県のにかほ市象潟にある蚶満寺は、不思議な伝承が語られています。ここでは深夜に歩いていた人が、境内にあるツバキの木が悲しげな声をあげるのを耳にしました。数日後、その寺には不幸が訪れ、それ以降も同様の怪異が続くことになります。そのため、このツバキは寺の厄災を知らせる存在として「夜泣き椿」と呼ばれるようになりました。このツバキは現在も健在で、樹齢はなんと700年に及び、寺の七不思議の一つにも数えられています。

岐阜県の伝承

岐阜県の不破郡青墓村（今の大垣市）では、円墳の発掘作業中に古い鏡や骨が見つかりました。しかし、その発掘者は謎の祟りに見舞われて亡くなってしまいます。村の人々は円墳を元通りにし、その上にツバキの木を植えました。以降、夜にその円墳の近くを通ると、ツバキが美しい女性に化けて光を放つと言われ、後にそのツバキは「化け椿」として知られるようになりました。

熊本県の「木心坊」

熊本県には「木心坊」という妖怪も伝わっています。この妖怪はツバキの木を材料にしてすりこぎを作ると、ツバキが変化して生まれ出るとされています。

古椿の霊にまつわる伝承は、日本の文化に深く根ざしており、多くの地域でさまざまなバリエーションが存在します。ツバキはただ美しい花を持つだけではなく、人々の生活と密接に関わる神秘的な存在であることがわかります。

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