古谷綱武

古谷綱武：文芸評論家としての生涯と波乱の私生活

古谷綱武（1908年～1984年）は、20世紀日本の文壇を彩った著名な文芸評論家です。ベルギー生まれという国際的な出自、外交官だった父親の影響、そして奔放な私生活と、彼の生涯は実にドラマチックでした。本稿では、古谷綱武の生涯、評論家としての活動、そして大きな社会問題となった離婚騒動について、詳細に解説します。

国際的な出自と揺れ動く少年時代

古谷綱武は、外交官である父・古谷重綱の仕事の関係で、幼少期をロンドンで過ごしました。その後、父親の赴任先を転々としたのち、13歳で単身日本へ戻り、愛媛県宇和島で叔父のもとで生活を始めます。その後、東京の学校へと転入を繰り返し、成城高等学校には入学するものの中退。この経験は、後の彼の多様な人生観形成に影響を与えたと考えられます。

高校中退後、古谷綱武は同級生だった大岡昇平らと同人誌『白痴群』を創刊。中原中也や小林秀雄といった当時の文壇の巨匠たちと交流を深め、文芸評論の世界へと足を踏み入れました。裕福な家庭環境を背景に、作家仲間を集めて自宅で「古谷サロン」を開くなど、活発な活動を展開します。

文芸評論家としての成功と生活の苦境

1936年、評論集『横光利一』の刊行により、本格的に文芸評論家としての道を歩み始めます。しかし、戦争の勃発により父親からの仕送りが途絶え、生活は困窮。家庭も不和となり、家財や家を売却せざるを得ない状況に追い込まれます。こうした苦境を乗り越えながら、女性論や児童文学論など、多岐にわたる分野で執筆活動を続けました。1944年には応召、翌年復員しています。

戦後、古谷綱武は亀井勝一郎や堀秀彦らとともに、恋愛論を専門とする作家として人気を集めます。教養主義的な視点を取り入れ、人生論や青春論と絡めた彼の恋愛論は、多くの若い世代の共感を呼びました。100冊に及ぶ著作と、雑誌への寄稿などを通して、文壇で活躍しますが、後に大きなスキャンダルとなる離婚騒動に見舞われます。

社会を揺るがした離婚騒動

1951年、古谷綱武は最初の妻・豊子と離婚。その相手が自身の秘書であった吉沢久子であったことが、大きな社会問題となりました。当時の女性論で活躍していた彼が、糟糠の妻を捨てて若い秘書と再婚したという事実は、世間の非難を招きます。この離婚劇は『文藝春秋』で「疎開型離婚」として取り上げられ、さらに『婦人公論』では30ページにも及ぶ特集が組まれ、当事者3人の主張や関係者の証言が掲載されました。この騒動は古谷綱武を世間の表舞台から遠ざける結果となりました。

晩年と多様な活動

離婚騒動の後も、古谷綱武は文筆活動を続けました。1969年には仲間たちと「むれの会」という勉強会を主宰するなど、文化活動への関与を続けました。彼の著作は恋愛論や女性論にとどまらず、児童文学、人生論、社会評論まで幅広く、その多様な関心と深い洞察力がうかがえます。多磨霊園に眠る彼の生涯は、成功と挫折、華やかさと影を併せ持つ、20世紀日本の知識人の典型的な姿と言えるでしょう。彼の著作は、現代においても、当時の社会情勢や文化を読み解く上で貴重な資料となっています。

家族関係

古谷綱武の家族には、外交官として活躍した父や、地元の名士であった祖父など、個性的な人物が数多く含まれています。彼の妹は作家・滝沢修の妻として知られ、弟の一人はブラジルで事業を展開しました。また、甥にはTBSの人気番組「8時だよ!全員集合」のプロデューサーを務めた人物もいます。こうした家族背景もまた、古谷綱武の個性形成に影響を与えたと考えられます。

膨大な著作リスト

古谷綱武は、生涯を通して100冊を超える著作を残しました。その著作リストは、彼の多様な関心と旺盛な執筆活動を如実に示しています。単著、共著、編著など、その種類も多岐に渡ります。これらの著作は、現代の私たちにとっても、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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