台湾少年工

「台湾少年工」とは、第二次世界大戦中に日本が直面した深刻な労働力不足、特に若年労働者の不足を補うために、当時の日本統治下の台湾から募集され、日本本土の軍需工場で働いた約8400人の少年たち、そしてその受け入れ制度を指します。

戦線がアジア一帯へと拡大し、多くの日本の若者が兵役に就く中で、軍需産業を支える労働力の確保は国家的な課題でした。日本国内、特に若年層の働き手は極めて不足しており、例えば関東地方全体で募集を行ってもわずか200名程度しか集まらないという状況でした。こうした背景から、神奈川県にあった高座海軍工廠の責任者であった安田義達は、台湾総督であった長谷川清に協力を要請し、台湾での少年工募集が実現しました。募集にあたっては、現地の学校長や担任教師の協力が得られたとされています。

海を渡って日本へやってきた少年たちには、当時の情勢下では比較的恵まれた待遇が用意されました。食費や生活費は公費で賄われ、さらに一定の給与も支給されました。単なる労働力としてだけでなく、彼らの将来を見据えた教育の機会も提供されました。具体的には、働きながら夜間学校などで技術や教養を学ぶことで、旧制工業中学校の卒業資格を取得することが可能であり、優秀な者には将来的に航空技師への道も開かれるという条件でした。

彼らは主に高座海軍工廠などで、終戦までの約2年間にわたり航空機の製造に従事しました。厚木海軍飛行場に配備される予定だった局地戦闘機「雷電」などの生産に携わったと記録されています。厳しい労働環境や異国での生活、そして空襲の危険にも晒されながらも、多くの少年が技術習得に励み、そのうち約400名が旧制工業中学校の卒業資格を取得しました。

1945年、日本が終戦を迎えると、台湾少年工たちはそれぞれの故郷である台湾へと帰還しました。日本での共同生活や労働の経験を通じて結ばれた絆は強く、帰郷後ほどなくして同窓組織「台湾高座会」を結成し、会員間の交流を続けてきました。また、青春時代を過ごした日本、特に旧高座海軍工廠の所在地であった神奈川県大和市や座間市との交流も継続的に行われてきました。

近年まで、彼らの日本での功績や体験を記憶にとどめるための様々な交流事業が行われています。2018年には、台湾少年工の来日75周年を記念する大規模な歓迎大会が神奈川県大和市で開催されました。同日には、座間市内に彼らの功績を永く留めるための顕彰碑が設置され、その除幕式も執り行われています。しかし、元台湾少年工の皆さんも高齢化が進んでおり、この時の歓迎式典は、元少年工たちが多数集まる形での大規模な交流の機会としては最後となりました。

彼らの歴史は、書籍などによっても伝えられています。例えば、台湾少年工が暮らした寄宿舎の宿監の子息であり、後に大和市議会議長を務めた石川公弘氏による著書『二つの祖国を生きた台湾少年工』（並木書房）が出版された際には、台湾の元総統である李登輝氏が一文を寄せ、この歴史的な経験の重みを示しています。台湾少年工の存在は、日台の近現代史における一つの重要な側面を物語っています。

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