台湾議会設置運動

台湾議会設置運動：植民地時代の台湾における自治への願い

1920年代初頭から1930年代半ばにかけて、日本統治下の台湾で活発に行われた台湾議会設置運動は、台湾住民が自らの手で政治参加を実現しようとした重要な歴史的試みでした。この運動は、イギリスのアイルランド議会をモデルに、台湾独自の議会を設立することを目指し、日本の帝国議会への請願という形で展開されました。

運動の背景：高まる民族意識と世界情勢

第一次世界大戦後、世界各地で民族自決の機運が高まりました。三・一独立運動や五四運動といった東アジアにおける民族運動の高まり、ウィルソン大統領の十四ヵ条やロシア革命の影響を受け、台湾でも民族意識が大きく高まりました。この機運を背景に、京都帝国大学の山本美越乃教授が朝鮮に独自の議会を認める提案を行うなど、植民地における自治への議論が活発化していったのです。

運動の発足と展開：幅広い支持と総督府の弾圧

1921年1月、東京在住の台湾人、林献堂ら187名が帝国議会に「台湾議会設置請願書」を提出しました。これは、運動の始まりを告げる重要な出来事でした。その後、1921年10月には民族主義活動家らが中心となって「台湾文化協会」が設立され、この団体を中心に運動が展開されていきます。

この運動は、右派から左派の社会主義者まで、幅広い民族主義者を結集した点が特徴です。台湾総督府は、この運動を台湾独立運動とみなして徹底的な弾圧を行いました。議会設置請願は15回に渡って行われ、中には2000名以上の署名が集まった請願もありましたが、総督府は請願委員会への政府委員派遣を拒否するなど、運動を徹底的に妨害しました。1923年には「台湾議会期成同盟会」が結成されましたが、すぐに弾圧され解散に追い込まれています。

日本国内においても、この運動に理解を示す声はありました。東京帝国大学の矢内原忠雄教授や、代議士の田川大吉郎、清瀬一郎らが運動を支援しましたが、総督府の強硬な姿勢は変わることはありませんでした。

運動の衰退と終焉：内部対立と政治状況の変化

運動は、次第に内部対立によって弱体化していきます。1928年の台湾共産党結成や農民運動の高まりを背景に左派勢力が伸張する中、地主や有産階級を基盤とする右派は運動から離脱しました。その後、急進化した左派も運動から離れていくことになり、運動は次第に衰退していきました。

1934年、満州事変後の治安強化策を名目に、総督府は運動家に対する圧力を強め、運動家たちは活動停止を約束させられました。1935年、中川健蔵総督が地方自治制を導入すると、地主・有産層は妥協し、運動は完全に終結しました。

請願の理由：台湾における立憲政治の実現

請願書には、台湾の特殊事情を考慮した特別立法の必要性、立憲国家である日本における台湾の立憲政治への参加、総督による立法・行政権の独占の憲法違反などが訴えられていました。台湾住民が日本における議会政治に参加し、自らの権利を擁護しようとした、強い意志の表れでした。

まとめ：未完の自治への願い

台湾議会設置運動は、総督府の弾圧と運動内部の対立という困難な状況の中、15回にも及ぶ請願を繰り返した、台湾住民の自治への強い願いを示す運動でした。この運動は最終的には成功しませんでしたが、台湾の近代史において、重要な意味を持つ出来事であり、日本の植民地支配下における台湾住民の抵抗と民主主義への希求を示す重要な事例として、現在も研究されています。

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