司馬承禎

司馬承禎：道教の改革者にして皇帝の師

司馬承禎(643年～735年)は、唐玄宗時代に活躍した影響力を持つ道士です。晋の宣帝司馬懿の子孫にあたる名門の出身でありながら、道教の修行に人生を捧げ、その名を後世にまで知らしめました。

承禎は幼少期より優れた才能を示し、潘師正という道教の師に師事して辟穀や導引といった高度な修行を学びました。その後、中国各地の名山を巡り修行を重ね、天台山に庵を結んで隠遁生活を送っていました。

承禎の才能は玄宗皇帝の耳にも届き、721年には宮中に招かれ、皇帝に師事することとなりました。玄宗は承禎を深く信頼し、彼からの進言によって桐柏観(天台山)や陽台観(王屋山)、そして五嶽の真君祠といった道教の施設が建立されました。

承禎の影響は宗教にとどまりませんでした。737年には、道士の身でありながら朝廷の要職である諫議大夫に任命され、741年には道教の教育機関である崇玄学を設立しました。崇玄学の卒業生は科挙の及第者と同等の扱いを受け、官吏となる道が開かれました。これにより、道教は政治に深く関与するようになり、玄宗治世における道教隆盛は承禎の功績によるところが大きいと言えるでしょう。

承禎は学識にも秀でており、老子や荘子の思想に通じていました。篆書や隷書にも精通し、玄宗の命を受け『老子』の校訂にも携わったと伝えられています。

彼の著作には『坐忘論』、『天隠子』、『服気精義論』、『道体論』などがあり、それらを通して、道教の思想を後世に伝えています。承禎の思想の特徴は「道禅合一」にあり、それまでの道教が煉丹や服薬、祈祷を重視していたのに対し、彼は内面的修養を重視する道教のあり方を提唱しました。これは、迷信や神秘主義からの脱却を意味するものであり、その思想は弟子である呉筠にも受け継がれていきました。

文人との交流も盛んで、陳子昂、李白、孟浩然、宋之問、王維、賀知章といった当時の著名な文人達と親交を深めました。

89歳で没した承禎は、銀青光禄大夫の官位を贈られ、「貞一先生」という諡号を贈られました。彼の生涯は、道教の改革者として、そして皇帝の信頼を得た師として、多方面で才能を発揮した稀有な人物であったことを示しています。その功績は、唐代の道教史のみならず、中国思想史においても重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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