吉川元 (政治学者)

日本の政治学者である吉川元（きっかわ げん）氏は、1951年6月1日に広島県広島市安佐北区に生まれました。国際関係論、とりわけヨーロッパの安全保障を主要な研究領域とし、長年にわたり大学教育と研究活動に献身してきました。

氏の学究生活は、修道中学・高校を経て、1976年に上智大学外国語学部ロシア語学科を卒業したことから始まります。その後、一橋大学大学院法学研究科修士課程で学び、1978年に修了。さらに学びを深めるため、1980年にはカナダのトロント大学大学院博士課程で単位を取得しました。国内に戻り、1982年には一橋大学大学院法学研究科博士課程を単位取得退学しています。一橋大学では、著名な国際政治学者である細谷千博氏の指導を受けました。

研究者としてのキャリアは、1982年に広島修道大学法学部講師としてスタートしました。翌年には助教授に昇任し、1986年にはトロント大学ロシア東欧研究センターの客員研究員として海外での研究経験を積んでいます。1992年には広島修道大学法学部教授となり、同年にはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス国際関係研究センターの研究員も務めました。これらの経験を通して、国際的な視点からの研究を深めていきました。

1995年、一橋大学から博士（法学）の学位を取得しました。この学位は、野林健氏、有賀貞氏、石井修氏による審査を経て、論文「国際安全保障と人権」によって授与されたものです。氏の研究は、国際安全保障と人権という、当時から今日に至るまで重要なテーマに焦点を当てていました。

その後、1998年に神戸大学法学部教授に就任し、2000年からは神戸大学大学院法学研究科教授として教育・研究の中心的な役割を担いました。2007年には母校である上智大学に移り、外国語学部教授となります。2010年からは上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科国際関係論専攻の主任も務めました。教育者としても多くの学生を指導し、後進の育成に力を尽くしました。

また、2013年4月から2018年3月までの5年間は、広島市立大学広島平和研究所の所長・教授として、平和研究の推進に貢献しました。国内外の平和問題に対する深い洞察を提供し、研究所の活動を牽引しました。日本国際政治学会の評議員も務めるなど、学会活動にも積極的に参加しました。

吉川氏の研究テーマは多岐にわたりますが、一貫して国際社会における平和と安全保障、そして人間の尊厳に関わる問題を探求してきました。初期にはソ連における反体制運動や人権問題、ソ連ブロックの崩壊といったテーマに取り組みました。ヨーロッパ安全保障協力会議（CSCE）の発展過程に関する考察や、国際安全保障論における人間の安全保障の概念導入にも寄与しています。さらに、民族自決の原則がもたらす影響や、国際社会におけるマイノリティの問題にも焦点を当てた研究を進めました。予防外交やグローバル・ガヴァナンスといった現代的な国際関係論の重要テーマについても、編著などを通じて議論を主導しています。

主要な著作としては、『国際安全保障論――戦争と平和、そして人間の安全保障の軌跡』（有斐閣、2007年）、『民族自決の果てに――マイノリティをめぐる国際安全保障』（有信堂高文社、2009年）といった単著のほか、『ソ連反体制運動の展開』（広島修道大学総合研究所、1983年）、『ソ連ブロックの崩壊』（有信堂高文社、1992年）、『ヨーロッパ安全保障協力会議(CSCE)』（三嶺書房、1994年）などがあります。これらの著作は、国際関係論、地域研究、平和学といった分野において、重要な貢献を果たしています。また、予防外交、国際関係論の新しい地平、核兵器問題、マイノリティの国際政治学、グローバル化とウェストファリア体制の変容、グローバル・ガヴァナンスといったテーマで、多くの研究者と共同で編著や共編著を刊行しています。さらに、ダニエル・P・モイニハンの『パンダモニアム』の翻訳も手がけています。

現在、神戸大学名誉教授として、長年の教育・研究活動の功績が称えられています。氏の研究と思索は、国際社会が直面する複雑な問題への理解を深める上で、貴重な示唆を与え続けています。

もう一度検索