吉川需

吉川 需

吉川 需（よしかわ まつ、1916年 - 1995年）は、日本の造園学の発展に大きく貢献した学者であり、庭園史研究の権威です。山形県に生まれた吉川は、戦後の激動期において、日本の貴重な庭園文化財の保護と研究に生涯を捧げました。

庭園文化財保護への献身

東京帝国大学農学部で学んだ後、戦時中の兵役を経験した吉川は、1946年に東京帝国大学の助手として研究者の道を歩み始めます。この頃から彼は「発掘庭園史」という独自のテーマを掲げ、地中に埋もれた古代・中世の庭園遺構を明らかにする研究に取り組みました。

1951年、吉川は文化財保護委員会（現在の文化庁）に移籍します。ここから彼の庭園文化財保護官としての長いキャリアが始まります。退官に至るまで、彼は一貫して日本の庭園の調査研究、文化財遺構の発掘調査、そして復元整備に尽力しました。

彼は師事した吉永義信氏とともに、精力的に日本全国を巡りました。各地に点在する名園を一つ一つ丁寧に実測調査し、その姿を詳細な記録として残しました。これらの調査報告は、その後の庭園研究や文化財保護行政の基礎となります。

文化財保護行政においては、庭園を国の名勝として指定する手続きや、指定解除に関する検討、さらに荒廃した遺構の整備や本来の姿への復原事業に深く関わりました。特に、奈良の平城京に存在した北宮庭園のような重要な遺跡の指定に貢献しました。また、第二次世界大戦によって被害を受けた岡山の後楽園、京都の鹿苑寺（金閣寺）、広島の縮景園といった著名な庭園の復旧事業においては、その知識と経験を活かし、復興に尽力しました。

さらに、岩手県平泉に位置する中尊寺、毛越寺、無量光院といった藤原氏ゆかりの寺院に関連する庭園遺跡群についても、継続的な一連の調査を実施しました。これらの調査成果を体系的に総括したことは、中世庭園史研究において非常に重要な業績とされています。

学会活動と教育

吉川は学術界においても指導的な役割を果たしました。文化財保護審議会の専門委員や、財団法人日本ナショナルトラスト、社団法人日本庭園協会、文化財指定庭園保護協議会など、様々な団体の要職を歴任しました。識名園や永福寺、松本城など、個別の重要な文化財の復旧・整備委員会の会長も務めています。

特に日本造園学会においては、1960年（昭和35年）から長年にわたり評議員、理事、監事、副会長を歴任し、1979年（昭和54年）5月から2年間は会長として学会活動を牽引しました。

大学教育にも熱心に取り組み、文化庁での職務と並行して日本大学や東京大学、千葉大学、佐賀大学などで教鞭を執り、後進の育成に努めました。

研究成果と栄誉

初期の研究として、飛鳥山の公園発祥に関する研究で1949年に日本造園学会賞を受賞しています。その後、1979年には日本公園緑地協会北村賞、1994年には日本造園学会上原敬二賞を受賞するなど、その功績は高く評価されています。1986年には長年の功績に対し、勲四等旭日章が贈られました。1978年には日本大学から農学博士号を取得しています。

主な著書としては、『古庭園のみかた』、『枯山水の庭』、『小石川後楽園』、『日本の名勝』などがあり、これらの著作を通じて庭園史研究の成果を広く紹介しました。

吉川 需は、日本の貴重な庭園文化財を戦後の混乱期から守り、その歴史的価値を学術的に解明し、未来へ継承するための礎を築いた、偉大な庭園史家であり造園学者です。彼の残した調査記録や研究成果は、現代の庭園史研究や文化財保護活動においても、かけがえのない財産となっています。

主な著作

『古庭園のみかた』（第一法規、1968年）
『枯山水の庭（日本の美術）』（至文堂、1968年）
『小石川後楽園』（郷学舎、1981年）
『日本の名勝（第1巻）庭園』（講談社、1983年）
『日本の名勝（第2巻）庭園』（講談社、1983年）
『史跡名勝天然記念物 東日本の部』（平間修・齋藤忠・黒板昌夫と共編、吉川弘文館、1958年）
* 『天然記念物事典』（文化庁文化財保護部監修、第一法規出版、1971年）

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