吉志舞

吉志舞（きしまい）とは

吉志舞は、大嘗祭などの重要な儀式で、安倍氏の当主などが監督し、主に武官の服装である闕腋袍（けってきのほう）を着用して踊られたとされる舞楽です。吉師舞、吉士舞とも表記されることがあります。

舞の内容

舞い方自体は残念ながら現代には伝承されていませんが、楯節舞（たてふしまい：楯伏舞、楯臥舞とも表記）と同じものであると考えられています。どのような舞であったのか、想像するしかありません。

起源に関する伝説

吉志舞の起源には、いくつかの伝説があります。

一つは、神功皇后が新羅征伐から凱旋した際、安倍氏の祖先がこの舞を大嘗祭で披露したというものです。この伝説は、吉志舞が古くから朝廷の重要な儀式に関わっていたことを示唆しています。

もう一つは、住吉大社に関わる伝説です。神功皇后が帰還した際、現在の堺市七道浜の住民が出迎えに傘を被って踊ったのが始まりで、住吉踊りはその伝統を受け継いでいると伝えられています。この伝説は、吉志舞が民間の芸能にも影響を与えた可能性を示しています。

吉師氏と安倍氏

吉師とは、大和朝廷において外交や水軍などに関わった氏族を指し、渡来系の者が多かったとされています。安倍氏は、この吉師氏と関係があったとされています。吉師氏の活動が、吉志舞の成立に何らかの影響を与えたのかもしれません。

伊福部昭による「古典風軍楽　吉志舞」

映画『ゴジラ』の音楽で知られる作曲家、伊福部昭は、同名の吹奏楽曲「古典風軍楽　吉志舞」を作曲しました。この曲は、実際の舞楽とは直接的な関係はなく、伊福部が「吉志舞」という名前と故事から独自にイメージして作曲したものです。

作曲の経緯

この曲は、帝国海軍の依頼によって作曲され、1943年（昭和18年）2月に完成しました。初演は同年4月8日、服部逸郎指揮、東京放送吹奏楽団によってNHKで放送されました。戦時中の節日などにもたびたびラジオ放送されたとされています。伊福部によれば、1945年（昭和20年）8月30日にGHQ最高司令官マッカーサーが厚木飛行場に到着したことを伝えるラジオ放送でも使用されたとのことですが、実際に歓迎の音楽として演奏されたかどうかは定かではありません。

曲の構成と特徴

曲はロンド風の形式をとっており、特に行進曲調の第2主題は、戦後、映画『ゴジラ』などで自衛隊が出動する場面の背景音楽として頻繁に使われました。この第2主題は、『ゴジラ』の「フリゲートマーチ」、『宇宙大戦争』の「宇宙大戦争マーチ」、そして特に有名な『怪獣大戦争』の「怪獣大戦争マーチ」など、さまざまな形で編曲され、映画音楽として広く親しまれました。特に「怪獣大戦争マーチ」は、伊福部の代表曲として知られています。

再発見と現代での演奏

戦後、この曲は忘れられていましたが、1990年代になって再発見され、2001年（平成13年）5月には蘇演されました。現在では、陸上自衛隊中央音楽隊などによって演奏され、再び聴くことができるようになりました。伊福部昭が作曲した「吉志舞」は、歴史的な舞楽の名前を受け継ぎながらも、独自の魅力を持つ音楽として、現代に生き続けています。

まとめ

吉志舞は、古代の舞楽と、それを元にした現代の音楽という二つの側面を持つ興味深いテーマです。古代の舞楽は、詳しい内容は不明ですが、当時の人々の生活や信仰を知る上で重要な手がかりとなります。一方、伊福部昭の「吉志舞」は、戦争という時代背景を反映しつつも、映画音楽として多くの人々に愛されています。これらの異なる「吉志舞」を通じて、歴史や文化、芸術の多様性を感じることができるでしょう。

もう一度検索